page.130
目を覚ますと、カーテン越しに日が高く昇っているのが分かった。
そうだ、俺はここで昨日魔族の奴にあって、そして……
また俺のせいで危険な目にあった人たちが。ウィンベルトが怪我をして、ハクは全力使い果たして倒れて。
「はは……何やってんだろうな、俺……」
これはこの本の中のストーリーだ。それは分かっている。でも、彼らにとっては本当のことなんだ。もう合わせる顔がない。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
「エイトさん、起きてますか?」
ヒマリの声だ。
俺はできるだけ明るい声で、起きてるよと言った。まだベッドから出る気力は無いが。彼女はそっと扉を開けて部屋に入ってきた。
「エイトさん、疲れてるのにごめんね。もうすぐお昼だから、ご飯一緒に食べないかなと思って。」
「ああ、そうか。すっかり寝坊しちゃったな。」
「エイトさんは昨日、ヒマリたちを助けてくれるために頑張ったから疲れちゃったよね。ごめんね。」
明るい笑顔で話しかけてくる彼女に胸が痛んだ。この子は何も知らない。昨日危険な目にあったのが俺のせいだと言うことも、何もかも。
「ヒマリね、とっても怖かったけど、絶対エイトさんが来てくれると信じてたの。そうしたら来てくれた。ありがとう、エイトさん。」
「違う……ヒマリ。俺の……俺のせいなんだよ。」
俺を信じ切っている彼女に、思わず俺は言ってしまった。ヒマリはきょとんとしたが、すぐに笑いかけてきた。
「誰のせいでもないよ、きっと。たまたまヒマリたちが怖い目にあっただけだよ。そんなヒマリたちを守ってくれるために、エイトさんはいるんだよ。」
「ヒマリ……」
「ね、エイトさん。ご飯食べにいこ?ジェリコがエイトさんのために食べきれないほど作っているし、皆待ってるよ。」
皆が待ってくれている。その言葉が俺には重く、そしてありがたく感じられた。
「そうだな。じゃあ着替えてから行くから待ってて。」
「うん、待ってるね。」
ヒマリが輝くような笑顔を見せて部屋を出ていった。
そうだ、俺は彼らを連れて帰らなきゃいけない。ここで落ちこんでいてはダメなんだ。
両頬を叩いて気合いを入れた。彼らに変な顔を見せる訳にはいかないしな。
「エイトさん、起きたのね!夜まで起きてこないんじゃないかと思ったわ。」
メイリンが俺を見て声を上げた。
「ああ、おはよう。って、もう遅いか。」
「おう、エイト。起きたか。よく寝てたな。」
ウィンベルトがご飯を頬張りながら言った。昨日レッドヒルに襲われ怪我していた姿を思い出して胸が痛んだ。
「ウィンベルト、怪我は大丈夫か?」
「ああ、あの後治療してもらったからな。剣は武器屋で磨いてもらってるから後で返すよ。いやしかし、あれはなかなか良い剣だ。冒険者時代を思い出したよ。実に楽しかったな。」
ニヤリと笑うウィンベルトに苦笑した。あれが楽しかったって?
「そうそう、ウィンベルトさんは剣を手にしてからもう斬りまくりでさ。ひたすら高笑いしてたから、エルフが引いてたよな。」
ジェリコが爆笑しながら報告してくれた。
俺は黙っているユアンに声をかけた。
「ユアンは大丈夫だったか?」
「僕も大丈夫ですよ。ちょっと怖かったけど。」
「ユアン君は冷静だったよ。咄嗟に皆が隠れられそうな陰を探してくれたりね。」
カレンが来て、ユアンの肩をぽんぽんしていた。
「エイトこそ大丈夫?酷い顔色だよ。」
「あ……カレン。大丈夫だ。まだ疲れてるのかな。」
まだ顔に出ているのか。気をつけないと。
「じゃあ食ったら泳ぎに行くか。」
気楽に言うウィンベルトに、「さんせーい」と言う彼ら。
「いやいや!皆、昨日危険な目にあったばかりなのに!」
さすがに俺は驚いた。皆、お気楽すぎるだろう。
「だってレッドヒルはエルフが跡形も無く消滅させてくれたし、あの小島のダンジョンの魔法陣はお前が封印しただろう。後で魔導士が確認しに行ってた。あのダンジョンの入り口も封鎖したそうだ。」
ウィンベルトがそう教えてくれた。確かにもうレッドヒルが出てくることは無いが……
「しかしあの光景凄かったな!浜辺を埋め尽くすジェルフィッシュ!レポートにしたら教授も驚くぞ!」
いや、ジェリコ。レッドヒルもいたんだ。驚くどころの騒ぎじゃない。
俺はため息を吐いた。彼らにとっては何も変わっていない。なら、俺も彼らに合わせなきゃ。
「分かった。せっかくファルナートに来たんだから俺も遊びたいと思ってたんだ。後で水着を買ってくるよ。」
わあ!と声が上がった。皆、俺を見てニコニコしてる。こんな仲間が居てくれて良かったと思えた。
食事後に部屋に戻るとムルーアが居た。
「ムルーア!びっくりした。昨日は来てくれてありがとう、助かったよ。ハクは大丈夫か?」
彼は壁に背を預けたまま、しばらく黙ってこちらを見つめていた。
「……ダイハクリョクは大丈夫です。腹いっぱい食べて爆睡していましたよ。すぐに回復するでしょう。」
「そうか、良かった!ハクが居なかったら、もうどうにもならなかったから……」
良かった、ハクは無事なんだ。お礼にリンゴを大量にあげよう。
「……エイト殿。おかしいのですよ。あの小島への道を貴方と一緒に見た時、突然貴方が弾かれたように走り出した。あの時、私は何かを見た気がするのですが、どうしても思い出せない。」
あの魔族、ムルーアから自分の記憶を消したのか!
「ムルーア、それは……」
あれ?何故か言葉が出ない。
「エイト殿はダンジョンを見たから走り出したのか、そう思いました。我々エルフはダンジョンの中には入れませんからね。エイト殿はその理由をご存じですか?」
「エルフは暗くてじめっとしたダンジョンが嫌いなんだろう?そう聞いているけど。」
「そうでもありますが、我々エルフがダンジョンに入ると、力を吸い取られてしまうのですよ。そしてダンジョンに吸収されてしまう。貴方は我々のダンジョンでそれを見たのではないですか?」
そうだ。俺はエルフの国のダンジョンに潜った時、透けるような姿で漂うエルフたちの霊を見た。
「あれ?でも姫はダンジョンの中でも平気だったよな?」
「あの御方は特別です。ダンジョンの中でも守られるほどの強大な力を持ち、伝説のエルフの王になられる方ですから。」
「え……あの姫が!?!?」
あの、まるで常識の通じない駄々っ子の姫が!?ウッソだぁ!
「そうなのですよ。なのであの御方には名前が無い。特別な存在です。」
「そうなんだ……」
そんな姫が、俺のドラゴン攻略のパーティーメンバーなのか。それは凄いな。
「なんだか話が変わってしまいましたね。エイト殿が無事ダンジョンの魔法陣の封印をされたようで良かったです。王が、あの黄金の短剣を使うことをよく気づいたとおっしゃってました。」
「ああ……たまたまな。」彼にはそう言っておこう。
「では王にそうお伝えしておきます。また何かあったらお呼びください。今後もダイハクリョクを自由にお使いくださって良いので。」
「いつもありがとう、ムルーア。王とハルバルトにもよろしく伝えてくれ。」
そう伝えると、彼はいつもの笑顔を向けてくれた。
「いえいえ、またいずれ。」
そう言い残し、彼は消えた。
「エイトさーん、まだ出かけないの?」
ジェリコの声だ。俺が遅いから声をかけてきたのか。結構話し込んじゃったかな。
「ああ、すぐに行くよ。」
俺はバッグを持ち、部屋を出た。




