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5日間過ごしたセレチャルトからシェルナートへ移動した。
夕方の湖畔の風が爽やかだ。熱帯雨林や砂漠なんてのもあるセレチャルトはやはり暑かったんだな。まあ、あんな変なエリアだからこそ、この世界有数の研究施設があったりするんだ。
俺は前回来た時と同じ漁師宿に居を構えた。
この国に来てから14日目か…皆を連れて帰るにはあと10日ほどしか余裕がない。まあ、一旦送り届けてから再度俺だけ来てもいいんだけど。
それにしても、確か明日から皆はファルナートでリゾートなんだよな。いいな〜俺も遊びたい。いっそ先に遊びに行くか?
「お客さん、夕食は煮付けでいいかい?」
宿の主人が声をかけてきた。
「ああ、ありがとう。煮付けも美味そうだな。」
「いや、すまないね。今日獲ってきた分の刺身はもう他のお客さんで終わっちゃって。ジェルフィッシュのせいで、ちょっと獲れる量が減ってるんだよね。」
ジェルフィッシュってこの間聞いたな。クラゲみたいな生き物で、この湖でも夏の終わり頃に多くなってくるんだ。
「ああ、今年もそろそろジェルフィッシュの時期だもんな。」
「うーん。今年はかなり増えてきててね。皆、船が出しくくて困ってますよ。でも明日はお客さんにも刺身出せるように、大きな魚を捕まえるの頑張りますからね。」
「おっ、期待してるよ。」
ジェルフィッシュか……いかにも夏の終わりだな。この世界の秋がもうすぐ来るのか。クヌルギに戻った時には秋風が吹いているかもしれない。
俺は夕食が来るまで寝転びながら、そんなことを考えていた。
翌朝、俺はダンジョン探査を再開した。
まずはこの都市の西側からだ。
シェルナートにもそうダンジョンは多くはない。今回は馬がいないので、風魔法の高速移動を使うことにした。
俺の魔力ってそんなに多くないんだよな。でも街中でハクでの移動はさすがに目立ち過ぎる。何せばん馬サイズで、しかもユニコーンだからな。
一番近くのダンジョンに移動した俺は、とりあえず中に入ってみることにした。
「なあ、アド。この間のダンジョンでさ、きゅうりみたいな種を見つけたじゃないか。ああいうのって結構あったりするのかな?」
『さあ?たまたまじゃないですか?』
「もう〜また適当だよな。でも、ここでも見つかるかちょっと興味湧いてきた。」
『ふぅん、暇人ですね』
「暇ちゃうわ!めっちゃ忙しいわ!!」
ん?前方でガヤガヤ声がしている。別のパーティーが居るのか。彼らは俺のランプの灯りに気がついたらしく、ひとりがすたすたとこちらへ向かってきた。警戒心ないな、新人パーティーか?
「こんにちは!あなたも探査ですか?」
リーダーなのか、若いイケメンが声をかけてきた。いや、ダンジョンにいる時点で普通そうだろう。大丈夫か?このパーティー。
「こんにちは。ああ、そうなんだ。ダンジョンを見つけたので入ってみたんだ。」
「そうですか。なら依頼内容とは関係ないんですね。」
依頼内容?そうか、ギルドに寄ってないから依頼掲示板も見てなかった。このダンジョンに関する依頼があったのか。
「今日は通りすがりなので、依頼も何も見てなかったな。じゃあ俺は邪魔かな?」
「いえいえ。あ、もしよければご一緒しませんか?おひとりですと寂しいでしょう?」
いやいや、別に寂しくなんかないし。
「僕はパイクといいます。剣士です。こちらは幼馴染の魔導士のレイタと弓使いのメイルです。」
「よろしくお願いします。」
勝手に自己紹介始められた上によろしくされた。イケメンに幼馴染の可愛い女子ふたりか。よくあるラノベの序盤っぽい。俺とは縁の無かった世界観だ。
「ああ……俺はエイトという。で、このダンジョンの依頼ってどんなものなんだ?」
パイクは爽やかに笑った。
「このダンジョンは死霊に支配されてましてね。ダンジョンのボスはリッチなんですけど、本当に居るか確認してこい、ってもので。」
ぶーーーーっ!
俺は思わず吹き出した。
こいつらマジで言ってるのか!?新人パーティーが暗闇の奥で眠り続ける死霊の王と言われるあのリッチに出会ったりしたら瞬殺だぞ!?!?
「リ…リッチ?あの〜君たちのレベルって聞いてみてもいいかな?」
「あ、僕たちはレベル5です。始めたばかりでお恥ずかしいですが。」
本当に恥ずかしそうに照れた風でいうパイクと、うんうん頷いている女子たち。
「いやいやいや、死ぬから!君ら普通に死ぬからやめろ!!」
「え〜?見に行くだけですよぅ?戦わないし。」
メイルが言う。お前そもそも弓使いだろう、どうやって死霊の前に出るんだ。
「ね〜、寝顔なら可愛いかも知れないじゃん。」
いやレイタ。リッチにどんなイメージあるんだ。ぬいぐるみ抱いて寝てるとでも思ってるのか。
「絶対危ないからやめておけ!」
必死に止める俺に、彼らはお互いに顔を見合わせていた。
「でもぉ〜、私たちより先に100人は潜ってますけどぉ。」
「は!?100人!?!?」
「うんうん。私たち出遅れたねって言ってたんだよね。」
なんだその物見遊山は!漁港しかないところだからって呑気すぎだろ!!!
俺の開いた口が塞がらない間に、下からぞろぞろと現れるのが見えた。彼らのひとりは俺たちを見るとこう言った。
「駄目だな。8階層のところで大量のスケルトンがスクラム組んでやがる。あれじゃ降りられねえよ。」
彼らの後からも続々と上がってきた人たち。無駄足だったねーとか言いながらダンジョンを出ていった。
「じゃあ、僕たちも帰りますね。エイトさん、どこかでまた。」
パイクたちはバイバーイと手を振って去っていった。
残ったのは呆然としている俺ひとり。
「騒がしかったのう。」
「ああ……ほんとにな。……って何!!誰!?」
声に驚いて横を見ると、眠たげな青白い顔の、背の高い男が立っていた。この悍ましい気配…まさかこいつリッチか!?
思わず身構える俺に、そいつは気にする風でもなくあくびをしながら言葉を続けた。
「ふわぁ……せっかくゆっくり寝ていたのに……何故人間とはああも騒がしいのだ。」
「ああ…そうだな。さすがにうるさかったよな。なんかごめん。」
100人超の声がダンジョン中に反響したら、さすがに騒音公害だろう。何故か俺は謝った。
「こう騒がしくなってはここは駄目じゃの。引っ越すから、悪いが手伝ってくれんか?」
「は…?引っ越し……?」
見るとリッチの足元には、やたらデカい荷物がある。
「これはスケルトンには重すぎてな。持たせると、ヤツらの手足はポキリと折れてしまう。」
「は、はぁ……重っ!なにこれ!」
思わず荷物に手を出してしまったがずっしりと重い。一体何が入っているんだ、これ。
「重かろう。安眠用枕と特注の高級マットレス、あとぬいぐるみが入っているでな。」
……マジでぬいぐるみ抱いてんのかよ。
「じゃあ、人間どもが戻ってこないうちに行くとするか。あ、そこを左にな。」
何で俺はリッチの引っ越しを手伝わされる羽目になってるんだ!?
『エイトは本当に暇人ですねぇ』
「うるせぇアド!ほっとけ!!!」
何故かリッチに言われるまま、俺は隣のダンジョン目指して山の中を歩いて行くのだった。




