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俺はセレチャルトにある全てのダンジョンを回った。と言っても、現場で魔族の気配が感じられるか確認しただけだが。
砂漠エリア、熱帯雨林エリアも、あの芝居がかった魔族ならそこには居ないだろうと思ったけどね。
そろそろ移動するよと言った俺に、マイルは彼の研究対象であるサボテンのエリアを案内すると言う。いや、別に見たくないから良いんだけど……
でも、友達のマイルの研究なんだ。ちょっと付き合ってみるくらいはいいだろう。
「へー!意外と凄いんだな!」
俺は正直舐めていた。砂漠エリアの手前にあるその場所には、見渡す限り自生しているサボテンが!しかも大小カラフルだったり花も咲いてたりする。意外ときれいなもんだな。
「ね、凄いでしょ?ダルメル王国ではこれは無理ですよね。」
「ああ、確かに。気候が全く違うもんな。」
「あ、これですよ。シンラ教授がキース教授と共同研究しているのは。」
マイルが指差したのは、濃い緑でトゲが少ないやつだ。
「これは栄養価が高いし水分も多い。もし安定して移植できれば、土壌が変化して、米や畑の作物の品種改良ができるのでは?と期待しているんです。そもそもこのサボテンの品種改良が必要ですけどね。」
マイルはとても楽しそうに話している。大魔導士の一族でいるより、こうして研究している方がやはり好きなんだろう。
「そうか。じゃあまだまだ研究しないといけないんだな。」
「それが、キース教授のおかげで目処が立ちそうなんですよ。やはり彼女は優秀です。」
そのキースは、蒼のエルフのタルスと、謎の種の研究に没頭している。相変わらずタルスに対する態度は悪いが仲は悪く無さそうだ。
ちなみに、タルスが連れてきたカゴカは彼女の態度の悪さに辟易して、二度と来ない!と言い放って帰ってしまった。しかし何故俺が代わりに謝らなきゃならないんだ。
去る前に一応キースに挨拶しておきたかったが、忙しそうなのでマイルに伝言を頼んでおいた。
「ところでマイルは来週のファルナートはどうする?行けそうか?」
「あ…残念ながら、あの種の研究の手伝いをしてくれと言われたので、ちょっと無理そうです。」
「そうか、残念だな。じゃあ再来週に迎えにくるから。」
「はい、お願いします。僕だけじゃサボテン持って帰れないので。」
笑いながら言うマイルに、俺はしばしの別れを告げた。
さあ、次はまたシェルナートへ向かおう。
言っておくが海鮮丼を食べに行くんじゃないぞ、あくまでダンジョンの調査だ。
俺はハクにお願いして、森を抜けていった。首都には寄らずに一直線だ。ハクは制限時間内に俺を送り届けようとしてくれている。ハクは賢いし可愛いし最高だ。
あ、そうだ。シェバハールに寄ろう。
以前、ワーウルフに襲われていた馬車を助けた時に知り合ったお嬢様と、執事のセバスチャンがいるんだ。マイルは聞いたことないと言っていたけど、あのセバスチャン、絶対大魔道士だと思うんだけどな。
「ハク、ごめん。シェバハールに寄りたいから、左に行ってくれる?」
ハクは分かったというように首を振り、すっと進路を変えた。ほんとに賢い。好き。
シェバハールはシェルナートの近くにある小さな町だ。俺は町の人に以前聞いていた家名を伝え、家の場所を教えてもらった。
訪問すると、使用人がお嬢様を呼んでくれた。
「あっ!あの時のお兄さん!」
彼女は俺を覚えていてくれた。
「近くに来たから元気かなと思って。セバスチャンも元気?」
「セバスチャン?誰のこと?」
お嬢様は不思議そうに首を傾げた。
「え?ワーウルフに攫われたあの執事さんだけど。」
俺も困惑しながら言った。あれ?名前を間違えたか?
「執事の名前はアルフレッドよ。呼ぶから待っててね。」
呼ばれた執事はセバスチャンよりかなり若く、黒髪で丸っこい、人の良さそうな背の低い男性だった。
「これはこれは。先日は助けていただいて、本当にありがとうございました。あのワーウルフ、本当に恐ろしかったですな。今思い出しても身がすくみます。」
「……あ、いえ…どうも。」
どういうことだ。完全に別人だ。
確かに俺と話をした人はセバスチャンと名乗り、無詠唱で魔法を使うような人だった。でもこの人は普通の人じゃないか。
どうぞ上がってお茶でも、というお嬢様に別れを告げて俺は歩きだした。あれは夢?それとも俺の記憶違いなのか?
うーん……
悩んでも分からんか。とりあえずシェルナートへ行こう。
俺はシェルナート行きの馬車乗り場に向かいながら、それでも、どうしても違和感を拭うことはできなかった。




