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俺はマイルを宿に送っていった。明日朝に研究施設から迎えがくるそうだ。
俺も泊まればいいのに…というマイルに、「頑張ってな」と言い、俺は街外れの森へと歩いて行った。
夕暮れの明かりも届きにくい森の中、俺はエルフの指輪を取り出して、エルフのユニコーンのハクを呼び出した。
「ハク!会いたかったよ。」
薄暗くなった森の中でも、ハクの白い馬体と銀のたてがみは輝くように明るく見える。ハクは俺に顔をすりすりして甘えてきた。あーいつも可愛い。
「ハク。今日は夜に移動してみたいんだ。大丈夫かな。」
ハクはもちろん!というように鼻をぶるると鳴らした。
「良かった。なるべく道草は無しでよろしくな。」
俺はハクに飛び乗り、シェリマルトへ向かうようお願いした。
一旦首都に戻って馬車で移動する方法もある。でも、それだと3日ほどロスになるんだ。結構距離があるが、ハクなら行けるんじゃないか、そう思った。
山間にあるシェリマルトまでは、この都市間を横断する場合はひたすら森だ。そんな移動はまだやったことないから分からないけど、野獣や魔獣がたくさんいるかもな。
いつものように、ハクの行く先は木々が避けるように道が開けてゆくのが、暗がりでもうっすら見える。さすがはエルフのユニコーン!
そして、前方にうっすら明かりが見えてきた。まさかもうシェリマルトに着いたのか?
ハクがいなないた。もう帰る時間だ。
「ハク、いつもありがとう。」
俺は飛び降りてハクの顔をなでなでし、ぎゅーと抱きついてから、リンゴをこれでもかと与えた。嬉しそうにパクパクとリンゴを平らげるのがまた可愛い。
ハクが帰るのを見届けて、俺は森の先に見える明かりに向かって歩きだした。
うん、ここはシェリマルトだ。
久しぶりに来たけど全く変わってないな。とりあえず、宿が取れるか冒険者ギルドに行ってみよう。
夜のギルドはあまり人が居ない。夜勤…という程ではないが、来る冒険者はあまりいないからな。
「あ、もしかしてエイトさんじゃないですか!」
受付のトルメンが俺の顔を見て言った。
「うん、久しぶり。来る用事が無かったからさ。あれ?でもトルメン、前からここだったっけ?」
「いいえ、僕は異動ですよ。どこへ飛ばされるか分からないから仕方ないですよね。」
この世界のギルド職員は公務員みたいなもので、親しい冒険者に便宜を図ったりしないよう、時々異動があるとのことだ。
冒険者は地元密着の奴も多いからな。あちこち移動している俺みたいなのには、行った先で顔見知りがいるのは心強いことだが。
「ところでトルメン。俺はしばらくここで過ごすことになりそうなんだ。どこか宿は空いてないかな?」
「そうなんですね。どのくらいの期間ですか?」
「うーん、1週間から最長1カ月。あちこち行くから居ないこともあるかも。」
「なかなか難しいことを言いますね。」
苦笑しながら帳簿を見るトルメン。
「あ、じゃあエイトさん。空き家に住むのはどうですか?この辺りは寂れていますからね。街へ出てゆくからと、売り家や貸し家が増えてます。」
「そうか、貸し家も良いかもな。」
『もう買っちゃえばいいじゃないですか』
ええい、アド、うるさい。
もう夜なので今から不動産屋に行くのは難しいとのことで、今夜は宿を手配してもらった。
「じゃあ、明日朝にまた来る。」
それにしてもハクのおかげで早く着いた。またリンゴとオレンジを買い込んでおかないと。ここの食品屋にたくさんあるかな?
宿のベッドに寝転んで、ギルドで貰ったマップを見る。この辺りのダンジョンの位置が分かるものだ。そして、ダンジョンの印が付いているのは30カ所以上。
「うーん、結構あるな〜。やっぱり回るだけでも大変だな、こりゃ。」
明日朝に拠点を決めたら、とにかくひとつずつ行ってみるしかない。しかもダンジョンに潜るとなったら、いつ発生するか分からないアドの選択肢付きだ。手加減も期待できないしなー。
「そうだ、馬を借りよう。そうしたら移動が早いよな。」
『馬ですか?ちゃんと乗れるんですか?エイト』
アドが話しかけてきた。
「俺の中の勇者の記憶では、馬に乗って移動したことがあるよ。だから大丈夫なはずだ。」
『ふぅん。いつもハクに運んでもらっているだけだから、てっきり乗れないのかと』
「馬鹿にすんな!俺は乗った経験ないけど大丈夫だ!…たぶん。」
ギルドで紹介してもらった不動産屋で貸し家の契約をした。候補がたくさんあって迷ったが、中心地に近く、家具や調理器具も完備とのことで過ごしやすそうだ。事情を話すと、週契約にしてくれた。
「購入も検討されませんか?お値段勉強させていただきますよ。」
丁寧に「それは要らねえ」と言い、鍵を受け取りその家に向かう。
「へえ、悪くないな。」
貸し家とはいえ、俺にとっては人生初の、こういった家での一人暮らしだ。
キッチンには氷を入れたら生ものも保管できる保冷庫がある。これはドワーフの自慢の発明だ。
置いてある家具は年代物が多いから、昔から建っていた家みたいだな。
部屋は3つあったが、窓の大きい部屋を選んでそこを使うことにした。青いカーテンが爽やかだ。
さて、次は馬を借りなきゃ。
馬は専用の貸し馬屋、なんて都合の良い店はない。育成牧場に行って直接借りるのだ。
俺は冒険用の身支度をして、街の西にある育成牧場へと向かった。
牧場はいくつかあるのだが、俺が向かった小高い丘にあるその牧場では、いつもたくさんの馬が飼育されている。俺は作業をしている男性に声をかけた。
「はい。……ええっこりゃエイトさん!?お久しぶりなこって。」
「ムロンさん、久しぶり。」
ムロン爺さんは、長くこの牧場を経営している。俺は、というか勇者の記憶では、何度もここで馬を借りているのだ。
「また馬を借りたいんだよ。えーっと、アルティブはまだいる?」
俺は前に乗った馬の名前を言った。
「いいや、アルティブはもう引退しましてな。子のナイティブはいますが。」
有るの次は無いなのかよ。なんか面白いな。
「そうなんだ。じゃあそのナイティブに乗ることはできるかな。」
「はい、アルティブに比べると多少じゃじゃ馬ですがね。」
「じゃあナイティブを貸してくれ。朝借りて、夜に返しにくるのは変わってないよな。」
「はい、それで大丈夫ですよ。」
俺は早速ナイティブに会わせてもらった。黒鹿毛か、母馬に似てるな。
「ナイティブは繋がれると大人しいですが、たまに跳ねるので気をつけないと。まだ若いですからな。」
「分かった。じゃあ夜に返しにくる。ナイティブ、よろしくな。」
俺はナイティブを引いて丘を降りていった。
まず街の東側にあるダンジョンからだ。
俺はナイティブに乗り、早速その方面に走らせたのだった。




