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俺はセレチャルト行きの馬車で、マイルと並んで座っていた。
俺は彼に護衛を依頼されている。だからセレチャルトまでマイルを送り届けるのが俺の任務だ。
そう言うと、皆に囲まれて「エイトさんだけズルい!」攻撃が始まったが、だってそもそもそうじゃないか。マイルが研修に行くからこそ、皆もこの旅行が始まったんだから。
それに、彼の5つのバッグは俺のマジックバッグに預かっているしな。シンラ教授は一体何を考えてそんなに持たせたんだよ。
「あー、賑やかだったなー。」
馬車の中で俺が疲れたように言うと、マイルは笑って言った。
「皆、エイトさんにしばらく会えないのが寂しいんですよ。」
セレチャルトまでは馬車で1日がかりだ。首都から南側の都市に行く場合はそれくらいになる。北側は3時間くらいなのにな。
俺はマイルをセレチャルトまで送ってから、そのまま東側の都市のシェリマルトへ向かうつもりだ。
「マイル、ドワーフの国のこと、ありがとう。」
俺がそういうと、マイルは少し驚いたようだった。
「ああ、通行証のことですね。あの国はビンスタスから近いけれども、なかなか入れてくれないんですよ。技術を盗まれるのが嫌という意識が高いんですよね。でも……」
言い淀むマイルに俺は問いかけた。
「マイルも気になってる?最近のドワーフの商品のこと。」
「そうですね。昔とはいろいろ傾向が変わってきたというか。なんですかね、原材料が変わってる?」
「俺もそんな気がする。何が起きてるんだろうな。」
俺は両腕を頭の後ろに回してもたれかかり、馬車の天井を見るようにして言った。
「あと、エイトさん。ジェリコのこと、どう思います?」
「うん。何か悩んでいるみたいだな。」
マイルは少しうつむくようにして言った。
「たぶん、このまま実家を継ぐことを悩んでるんですね。周りには熱心に彼の知らないことを勉強する人たちがいる。自分は農業のことだけ学んでいていいのかと思ってるみたいです。」
そうか、ジェリコは実家の米農家の為に、その関連の講座だけ取ってるんだっけ。
「まあ、今回の旅で彼の得るものによって変わるでしょうね。僕は見守るだけだし、もし彼に助けが必要なら喜んで手伝いますよ。」
マイルはこういう奴なんだ。三大魔導家のリヴァリエルなんて名門に生まれても、友達のことに真剣に心を尽くす。
「マイルってさ、きっとモテるよな。」
俺の素直な言葉に、真っ赤になって慌てるマイル。よっぽどビックリしたらしい。
「い…いきなり何言いだすんですかエイトさん!?」
そんなマイルがおかしくて爆笑したら、マイルもつられて笑いだした。
そんなことを話しているうちに、馬車は休憩所に到着した。馬を休めないといけないしな。
俺たちは馬車を降りて、うーんと伸びをした。
「ハクが恋しくなっちゃいますね。」
マイルは休憩している馬をちらりと見て言った。
「そうだろう、ハクは可愛いからな。」
俺は親バカ全開で答えた。いや、親じゃないけど。
「エルフに馬を貸して貰えるなんて凄いですよね。一体何が起きたらそんなことになるんでしょう。さすが勇者だけのことはあります。」
何が起きたら、か。
俺はあのエルフの姫を思い出していた。こちらの常識が全く通じないあの姫、そしてなすびときゅうりのことを。
「いや、まあちょっと依頼を受けただけだよ。」
「そうなんですか?エイトさんのことだ。凄く難しい依頼だったに違いないですね。」
うんうんと頷きながら話すマイルに、たぶん言っても混乱するだけだろうと思いやめておいた。
簡単に昼食を取り、また馬車に乗り込んだ。
「エイトさん、エルのこと、本当にありがとうございました。」
マイルは真剣な眼差しで俺を見てから、ふっと目を下に向けた。
「エイトさんが助けてくれなかったら、エルはもうこの世にはいなかった。そうなっていたら皆どうなっていたか。家族も、国も……」
マイルは自分のことは言わなかった。彼の初恋の女性だ。俺も何も言えなかった。
マイルは顔をあげて、いつもの笑顔で言った。
「リヴァリエルはエイトさんの為だったら、何でもします。帰りにエルの子どもにも会ってあげてくださいね。」
その後、俺たちはなんとなく黙りこんで、そのうちうとうとした。
ふと気づくと、夕焼けが迫る中、遠くにセレチャルトの街が見えてきた。あの南側にマイルが行く研究施設があるんだな。
俺はまだ寝ているマイルの顔を見ながら、彼の研究がスムーズにいくよう願うのだった。




