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ウィンベルトの宿はこじんまりしていたが、清潔感のある落ち着いたところだった。
「エイト、久しぶりだな。元気だったか?」
お互いハグして再会を喜んだが、もちろんいつものように俺は初対面。俺の中の勇者の記憶にそうあるだけだ。
元剣士のウィンベルトは貴族出身だ。5人兄弟の一番下だとかで、冒険者になり家を出て、引退してからはここで暇そうな宿屋をやっている。
「エイトの言っていた学生さんたちね。さあ、入って。お部屋に案内するから。」
カリンも相変わらずだ。元格闘家の彼女は、今は立派な女将という風情だ。
俺とマイルはダイニングでウィンベルトと話をした。
「期間は知らせた通り夏休みの間。だいたい1カ月になると思う。俺とマイルは出ていることが多いので、彼らのことをお願いしたい。」
「なるほど。分かった、俺たちに任せておけ。手間賃はエイトからたっぷり貰うさ。これはエイトからの依頼だからな。」
そう言ってニヤリとするウィンベルト。
「依頼って、お前はもう冒険者じゃないだろうが!」
俺がそうつっこんだところで皆が戻ってきたので、これからの段取りを説明する。
宿泊費は1カ月で1ゴールド。1カ月の食事付きなら破格の値段だ。学生価格ってほんといいよな〜。学生ではない俺は、当然がっつり取られるんだけどね。
それにしても、ここにはほとんど滞在しないというのに、マイルも同じように払うという。日割りにしてもらえばいいのにと思う俺はせこいのか。
「朝食と夕食はこちらで用意するけど、要らない場合は先に言ってね。昼食が要る場合も言ってくれたら、銅貨1枚でお弁当を用意します。」
カリンがそう言うと、ウィンベルトが補足する。
「ここは君等が住んでいるところと料理も食材もまるで違う。食べてみて口に合わないと思ったら素直に言うんだ。無理して食べるとおなかを壊すこともあるからな。」
さすがに長年各国で活躍していた冒険者だ。よく分かっている。
「気候もまるで違う。蓄氷プレートを部屋の壁に取り付けたので、涼しく過ごせると思う。特別サービスだ。」
氷系の魔導士が夏に小遣い稼ぎで売っているアレか。マットレスの下に敷くとひんやり気持ちいいんだよな。壁についてるということはエアコン代わりの強力なやつだな。
「お、ウィンベルト。さすが、気が利くね!」
俺の言葉にウィンベルトはニヤリと笑った。こいつ、サービスとか言いながら代金は俺に請求する気だな。まあいいけど。
「皆、行きたいところとか、やりたいことがあったら何でも私に言ってね。この国のことだったら何でもこのおねーさんを頼ってください。」
「は?このおばさんの間違いだろ。」
あ、ウィンベルト、後頭部殴られてる。カリンは元格闘家だから痛いだろうな。
「ウィンベルトさん、ありがとうございます。お世話になります。」
代表して頭を下げるマイルに、後頭部をさすりつつ、鋭い眼差しを向けてウィンベルトが言った。
「君、その顔はリヴァリエルだろう。魔導士ではなくて学生か。まあ俺もダルメル国の貴族の家を出て冒険者になったから同類かもな。」
驚いたように顔を上げたマイルに、ウィンベルトは言葉を続けた。
「人生一度きりだからな。好きにすればいいさ。学生諸君、君等もだ。家のことやおとなの都合なんて無視すればいい。好きなことをやれ。やらずに後悔だけはするんじゃないぞ。」
「ちょっとウィンベルト!あんたがそうだからって子どもたちを焚き付けるのはやめなさい!ごめんね、この人ちょっと極端で。」
皆が笑う中、ふと見ると、ジェリコは真剣な顔をして聞いていた。何か思うところがあったみたいだ。
その後は皆で外出して、カリンの案内で近隣の店や施設を確認してゆく。
「あ〜ヒマリ覚えられないよぅ。」
地図を見ながら混乱しているヒマリにユアンが言っている。
「大丈夫。後で教えてあげる。」
ユアンはこの旅で結構話すようになってきた。
「あなたたちは1カ月もこの国に住むんだから、すぐに覚えられるよ。」
「住む…か。なるほど。」メイリンがうんうん頷いている。
俺は街を眺めながら思った。
人ってどこででも住めるんだよなと。
俺も戻ったら、就活は地元だけじゃなく全国で探してみようか。どこかに俺に合うような面白い仕事があるかも知れない。
カリンにいろいろ聞きながら歩いている彼らを見ながら、俺はそんなことを考えていた。
夜はカリンの心尽くしの夕食で、皆の歓迎会、兼、マイルの送別会になった。
「送別会って…時々戻ってくるのに。なんだか追い出されるみたいで寂しいじゃないか。」
可愛くすねたふりをするマイルに、メイリンが吹き出す。
「あーなんかそれ、アルトさんに似てるー!」
「いや、双子だから似るだろ。」
つっこむジェリコに、「それはちょっと心外だな。」と苦情っぽく笑うマイル。
俺もこの賑やかな面々としばらく離れたりするんだ。ちょっと寂しいな。すると、ちょんちょんとつつかれた気がして振り向いたらヒマリが居た。
「エイトさんも気をつけてね。ヒマリ待ってるからね。」
「ああ、ありがとうヒマリ。俺も時々帰ってくるから心配しないでね。」
にっこり笑うヒマリと、それを見ていて微笑むマイル。皆いい子たちだ。
よし、俺も頑張ってこよう。早く地図を見つけなきゃな。
俺はそんな決意を新たにするのだった。




