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マイルはアルトに王宮へ行くと告げ、皆のことを頼んでいた。
「良かった。やっぱり俺とサイズが一緒なんだな。」
アルトはマイルの為に、リヴァリエルの正装を準備させた。マイルがいつ帰ってきても良いように、アルトの成長に合わせて、いつも2人分が用意されていたそうだ。
当然俺は冒険者の服装のままだ。軽装でなんて行けやしないし、冒険者に正装なんてないからな。
だいたい日本人の俺が勇者の服装なんてまるっきりコスプレにしか見えないのに、もしアルトみたいな魔導士の正装を着たりしたら、結婚式の会場にやりすぎ衣装で現れた浮かれ客みたいだろう。
くそーアドめ。なんで俺をこの本に引き込んだ時に、姿を勇者っぽく変えてくれなかったんだ!
しかしこの国の王に会うのは初めてだな。他の国の王には謁見したことはあるが、ここの王はとにかく冒険者が嫌いで、祝宴くらいでしか会わないそうだ。
俺に会うのは嫌がられるかと思ったが、意外なことにすんなりと謁見が認められたのだ。
豪奢な謁見の間で、跪く俺たちの前に、王は玉座にふんぞり返っていた。
「お前が勇者エイトか。きっとお前が予の前に現れるとイグナから預言が届いておった。」
イグナとはイルー島に住んでいる、元王宮付きの預言者だ。おばばの本名、久しぶりに聞いたな。
「予は冒険者は好かぬ。勝手にダンジョンに入って好き勝手に物を持ち出してゆく無法者だ。冒険者ギルドを各地に置くのは、各国で決められているから仕方ないがな。」
確かに王が言うのももっともなことだ。私有地を荒らされているのも同じだからな。
「マイレウス・リヴァリエルよ。長らく出奔してしたお前が突然戻ってくるなりこれか。こんな得体の知れん者が、魔導士の不治だという病に対して、一体何ができると思っているのだ。」
マイルが肩を震わせながら言った。マイルにしても子どもの頃に会ったかも知れないが、ほぼ初対面なんだろう。
「恐れながら、王に申し訳あげます。勇者エイトは私の護衛として今一緒におります。彼は信頼に足る人物です。その彼がなんとかできるかもしれないと言っております故、来ていただきました。」
「フン。かもしれない……か。」
王はいかにも馬鹿にするように吐き捨てた。
「なるほど、いいかげんな物言いだな、勇者よ。ならばなんとかしてみせるがいい。エルティアナが治るなら、予も新しい妃を魔導家から迎えんで済むからな。お前がもし第八妃の病を治すことができたなら、なんでも言うことを聞いてやろう。もう下がるがよい。」
俺たちは玉座の間を辞した。
部屋の外に出ると、マイルの両親が待っていた。王の命で待機していたとのことだ。
「マイル、来てくれたんだな。」
マイルの父であるリヴァリエル卿が言い、母が彼を抱きしめる。
俺たちはそのままエルの部屋に行った。その部屋の中央にあるベッドに横たわる、荒い息づかいで、苦しげに震えている女性の姿があった。
「マイル、エルはもう意識も無いの。私たちにできることはここまでだわ。」
マイルの母は静かに言った。
「医師は来ていないのか?王はエルを放置しているのか!」
マイルは、眠るエルを見ながら怒りを抑えきれないように言う。
「マイル…医師は我々が断っているのだよ。来てもらっても仕方ないからな。それに王はエルのことをとても気遣ってくれているのだ。」
「僕にはそうは思えない!あんな冷たい方がエルを大切にできるなんて信じられないよ!」
興奮しているマイルをなだめるように、彼の父は言った。
「王はな、幼い頃からこんな国の後宮で苦労する必要はないと、エルが成人するまでは我が家で過ごすようにと言ってくださった。この大国では各地の有力貴族と縁を結ばねば、統治などできないと知っているだろう。王のあの姿は、強い支配者としての当然の振る舞いだ。」
確かにそうだ。この国は南北に相当広い。各地の有力貴族と政略結婚でもしないことには、王国全土を治めることなんて到底できないんだろう。
マイルが落ち着くのを待って、俺は皆に話を切り出した。
「あの…俺は、どんな病気や怪我でも治すという奇跡の妙薬を持っているんです。」
「エイト殿、それはどういうことなのですか。」
俺はエルフの国のダンジョンで、それを見つけたことを話した。その妙薬を使えば、彼女の病もおそらく治るということを。
話しながら俺は聖女テレンツィアのことを思い出していた。目が見えず聞くことも話すこともできない彼女は、この妙薬があることを知りながら、それはこの旅の為に俺が持っておくべきだと言った。
テレンツィア、ごめん。俺はいつか君にこれを渡すつもりだった。でも俺は今、彼らの苦しみを見捨てることはできない。
「エイトさん、そんな貴重な物をエルに使ってくれると言うんですか?僕らは知り合ってまだひと月も経っていないのに……」
マイルが信じられない風に言う。
「いいよ、マイルたちが喜ぶなら。俺が持っていても仕方ないし、エルさんの為に使ってみよう。リヴァリエル卿、よろしいですか?」
「ああ…もちろん。エルが助かるなら…頼む。」
俺はベッドに近づいて、マジックバッグからあの黄金の細い壺を取り出した。ひやりとした感触のそれのフタを開ける。甘いような不思議な香りが漂った。
彼らも近づき見守る中、眠るエルの口元にそっと壺を近づけて薬を少しずつ注ぎこんだ。
しばらくすると、彼女の身体が眩い黄金の光に包まれて、瞬間、黄金の壺は俺の手から消滅した。
光が消えた彼女を俺たちは覗きこむようにした。瞼が動き、ゆっくり目を開けたエルは両親とマイル、それに俺を見た。
「マイルなの?大きくなったね。」
マイルを見て話しかけるエルの手を握りしめて、彼も返事をする。
「そうだよ。久しぶりだね、エル。」
リヴァリエル卿がエルに触れ、安堵したように頷き、俺に握手を求めてきた。
「エルの魔導回路が元に戻った。これは奇跡だ。心から感謝する、エイト殿。」
「いいえ、本当に良かったです。」
リヴァリエル卿は王に伝える為に部屋を出てゆき、入れ替わるように医師や看護師、メイド達が慌ただしく現れたので、俺とマイルはリヴァリエル家に戻ることにした。
「エイトさんには一生感謝してもしきれません。」
「いや、友達でいてくれたらそれで良いよ。これからもよろしくな。」
俺たちは笑顔を向け合いながら、馬車で仲間の待つ別館に戻っていくのだった。




