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ビンスタスに到着した時には雨はあがっていた。
俺とマイル以外のメンバーには初めての首都だ。馬車が行き交う道路の広さや、建物の大きさ高さに彼らは圧倒され言葉を失っていた。
「ヒマリ、こんなとこ絶対迷子になっちゃう…」
呟くヒマリにジェリコが声をかける。
「皆で一緒に行動したら大丈夫だよ。俺も道分からないけど。」
「それじゃ一緒に迷子ってことじゃん!」
ジェリコの言葉に、いつものようにメイリンが突っ込む。
マイルは馬車を呼び停めた。皆に乗るように促して、リヴァリエル家に行くよう告げる。
「皆、ここでは僕の実家に泊まることにしたからね。数日ゆっくりしながら、今日までのレポートをまとめておくように。」
まるで先生のように言うマイルに、ジェリコが「忘れてた!」と言った。
この旅は、マイルにとっての出張であると同時に、シェアハウスの面々にとっては、それに便乗した夏休み旅行なのだ。ただし旅行の許可を取った際、彼らは講師にレポートを提出しなければならないことになっている。
そして、マイルの家に到着した我々は再度言葉を失っていた。
「……何、ここ。……お城?」
メイリンが呟く。無理もない、ここは3大名家のひとつ、リヴァリエルなのだから。
以前俺も通りがかった時、でけー家だなとは思った。まさか来ることになるとは思わなかったけど。
門を抜けると出迎えがいた。執事さんだそうだ。
「マイレウス様。大きくなられましたな。」
彼の声が少し震えている。涙すら浮かべているようだ。
「うん、久しぶり。元気そうで良かったよ。」
執事にそう語りかけているマイルに向かってダッシュしてくる人がいた。
「マイルーーーーーーー!」
そう言ってマイルに抱きつき、その勢いのまま押し倒すように一緒に倒れた。あれ?同じ顔?
「痛っ!!ちょっ!アルト。顔すりすりしないで!」
「マイル、会いたかったよ。マイルーーー!」
アルトと呼ばれた人が、マイルの言ってた双子の兄か。なんかブラコンのようだな。
執事が慣れたようにふたりを引き剥がし、ふたりは立ち上がった。髪型と服装が違うだけでほんとうに瓜二つだ。
アルトは俺たちを見てニコニコしながら言った。
「マイルのシェアハウスの仲間たちだね。マイルから手紙でよく聞いているよ。いつも仲良くしてくれていてありがとね。」
次代の魔導家の当主とは思えないフレンドリーさだな。マイルより愛想がいいかもしれない。
マイルは服についた土ぼこりをはたきながら、皆に兄を紹介していた。
「皆、彼は僕の双子の兄のアルティウスだ。」
「アルトでいいよ。よろしくね。」
とりあえず、中に入りましょうと執事が声をかけてきた。
アルトがマイルに話しているのを見ながら、俺は彼らのすぐ後ろを歩いていた。
「父も母も家には居ないんだ。今は王宮に詰めている。……エルのことでだ。」
マイルの肩がぴくりと跳ね上がる。
「エルがどうしたんだ。」
アルトは言いにくそうにしていたが、ふぅとため息をついてから言葉を続けた。
「例の病が発症したんだ。」
マイルの足がとまる。
「まさか……」
「ああ、そのまさかさ。もう何十年もあれを発症する人はいなかった。しかも臨月なのに。」
立ち尽くすマイルに、アルトは詳しくは後でと言っていた。この家では、今何か大変なことが起きているようだ。
俺たちはそのまま別館に案内された。まず応接室で自己紹介の後、アルトが説明してくれた。
「今、父も母も忙しくて不在なんだ。今日は挨拶ができなくてすまないと言っていたよ。」
アルトはお茶をひとくち飲んで続けた。
「この別館には君たちだけだから、各自ひとつずつ部屋を用意してある。用事があったら部屋のベルを鳴らすとメイドが来るからね。食事は食堂に用意させる。」
アルトはマイルを見てニヤリと笑って言った。
「君たちの勉強も兼ねて、とのことだから、希望するなら家庭教師も呼ぶよ。」
「ええっ、いいんですか?僕聞きたいことがあって。」とユアン。「何教えてくれるんだろ?」「わ!楽しみ!」と口々に言う面々に、アルトの顔が引きつってる。
「マイル、彼らは遊びに来てるんじゃないの?冗談だったのに〜。」
「アルト、彼らはいつも勉強熱心なんだよ。」
間を取って、明日は彼らの学びに専門の家庭教師を呼び、都市の案内や散策をしてもらうということになった。
「今日はここでゆっくりすると良いし、出かけたい人には案内をつけるからね。それもメイドに伝えて。」
はーい、と答えて、皆はそれぞれの部屋へと案内されていったが、俺はマイルに呼び止められて応接室に残った。
「アルト、先程の話を聞かせてくれ。」
マイルの声が震えている。皆の前では我慢していたんだな。
「ああ…先週のことだ。」と、アルトは話しだした。
彼らの義理の姉のエルティアナは、王家に嫁ぐため、12年前に血の濃い親類から引き取られてこの家で育てられていた。いわゆる政略結婚の為にだ。
5年前に国王の第八妃として嫁いだ彼女は、まもなく出産予定だが、突然ある病を発症した。魔力の強い魔導士だけに、ごく稀に発症する病だ。
それは自分の中で魔力が暴走を続け、やがて命が奪われるというもの。魔力が外に漏れないため、制御も排出もできない。つまり、暴走しているのに外から止められない上、浄化や封印もできず、治療が極端に難しい。治った人は今までに数人いるかどうからしい。
彼らの両親はなんとか母子の命を繋ぎとめようと、現在全力を尽くしているとのことだ。
「よりによって、エルがそんなことに……」
マイルは頭を抱えている。アルトはそんなマイルを静かに見つめていた。
アルトは所用があるからと出ていき、応接室には黙りこむマイルと俺だけが残された。
「エイトさん、すみません。残っていただいて。僕だけでは耐えられそうになかったので。」
ため息をついてから、苦しそうにマイルは話しだした。
「僕ね、エルのことが好きだったんです。でもエルは生まれた時から王家に嫁ぐことが決まっていた。彼女はいつも優しくて、もっともっと好きになっていって。それがだんだん苦しくなって、勉強の為だと言ってこの家から逃げたんですよ。」
「マイル……」
俺はどう言葉をかけていいか分からなかった。
「もう昔のことです。今はエルが幸せならそれでいい。なのに、何でこんなことに……」
マイルは涙をこぼしていた。いつも穏やかで落ち着いているマイルが。
そんな彼を見て俺は悩んでいた。
俺には彼女を助ける手段がある…と思う。でも今ここで、なのか?
いや、きっと今なんだ。
「マイル、俺を王宮に連れていってくれることはできるか?なんとかできるかもしれない。」
「え…?エイトさん、今なんと……」
「行こう、マイル。」
俺は立ち上がった。マイルのために。そしてマイルの大切な人の為に。




