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「エイトさんは、なんで冒険者になったんですか?」
テントの中でジェリコが問いかけてきた。
いや、俺は普通の大学3年生であって、勇者なのはこの本に引っ張り込まれただけなんだよね。
どうしよう…適当にそれっぽく話しておこうか。
「ジェリコ、俺はな…」
「ぐーーーー」
あれ?ジェリコ、寝てる?寝てるな……
一生懸命それっぽいラノベ的設定考えたのに!
まあ、今日は皆、徒歩移動を頑張ったから。
あの後乗合馬車で次の村へ行って、その後、隣の村までまた歩いて。最後にハクの馬車でここまで移動したんだ。
馬車の中で、ハクの背に飛び乗る為に出力を操れるよう練習した風魔法を使い、皆に風を送って涼んでもらった。なんだかエアコンか扇風機になった気分だ。
「エイトさんの言ってたこと、嘘じゃなかった…疑ってごめんなさい!」
ジェリコが謝ってきたけど、俺も完璧にできるかどうか分からなかったし。万一吹っ飛ばしたらどうしようかと。
なんとなく眠れないのでテントを出て伸びをした。
あれ?マイルがいる。彼もテントから出てきたのか。
明るい月明かりの下、テント傍らの岩の上に腰掛けていたマイルに声をかけた。
「どうした、マイル。眠れないのか?」
マイルは俺の声に少し驚いたようだった。俺はマイルの近くの岩に腰を下ろした。
「エイトさんこそまだ起きてたんですか?明日にはビンスタスに着きますよね。行くのは久しぶりです。」
「帰るのは、じゃないのか?」
「え……」
俺は先日から気になっていたことを聞いてみることにした。
「マイルはもしかして、あのリヴァリエル家に関わりがあるんじゃないのか?俺たちのテントに、個別に長時間の結界を軽々と張れるなんて、本家の血筋の持つ力なんだろ?」
魔道士は生まれつき強い魔力を持つ。
この世界には三大魔導家があり、魔導士は例外なくそのいずれかの家の血を引いている。
そしてビンスタスにあるのがそのひとつのリヴァリエル家だ。
「そうです。僕はリヴァリエルです。あの家を出て10年近く帰っていないですけどね。」
マイルは、ふっと遠くを見るような目をしてから、俺を見て言葉を続ける。10年って13歳の時じゃないか。
「ちょっと居辛くなったので、遠い親類のいたクヌルギで好きな勉強をすることにしたのです。シンラ教授はその親類の友人なんですよ。」
「でも、家を継ぐ必要は無いのか?」
「ああ、それは、双子の兄が継ぐことになっているので、僕はそれなりに自由なんです。まあ、僕がリヴァリエルと言うことは秘密にしているというより、わざわざ吹聴するようなことではないからですね。」
そうなんだ、何か複雑な事情でもあるのかと思ったけどそうでもないのか。
「明日は僕の家に泊まれるよう、一応連絡はしてあります。ゲストハウスとして別館がありますから、皆で数日ゆっくりしましょうか。」
うお!さすが3大名家!別館付きか。
「ありがとう。ここのところ、ほんと宿が見つからないからな。」
「それはエイトさんがひとりで宿泊するからかも。ファミリー用だと意外に空いていたりするんですよ。今度宿を探す時は聞いてみたら?ひとり部屋よりは割高でしょうけどね。」
「なるほど、それは気づかなかった。また旅に出る時は聞いてみるよ。」
しかし三大魔導家か。魔導士と仕事をしたことはあるけど、彼らも本家に行くことはなかなかないと言ってたな。
「マイル、そう言えばセバスチャンって魔導士知ってる?結構高齢で、大魔導士レベルだと思うんだけど。」
「セバスチャン?……いいえ、そんな名前は聞いたことはありませんね。どこの血筋か分かりますか?」
「うーん、いや、分からなければいいんだ。」
ま、いいか。フィルマルト王国に行った時に分かるかもしれないし。
雨がぽつぽつと降りだしてきたこともあり、そろそろ寝ようかと、俺たちはそれぞれのテントに戻った。
明日は雨なんだろうか。一応全員の雨具もあるけど、雨の中を今日みたいに歩くのは無理だな。この世界、日本の梅雨や夏みたいに湿気が強くないのは助かるけど。
まあ起きてから考えるか。
雨粒がテントに当たる音とジェリコのいびきを聞きながら、俺は眠りに落ちるのだった。
起きるとまだ小雨が続いていた。
俺はマイルと相談して、ハクでビンスタスに移動することにした。テントをたたむ前にハクを呼び出す。
「ハクー!おはよー!!」
メイリンたち3人がハクに声をかけながら馬車に乗り込んでいる間に、俺とマイル、ジェリコは手早くテントを畳み馬車に積みこんだ。
この世界の冒険者用テントは、しばらくすると勝手に乾くからほんとに便利だ。
俺は御者に行き先を告げて馬車に乗り込み、皆で軽く朝食を取りながら移動を始めた。
いよいよビンスタスだ。
俺は久しぶりのこの国の首都滞在に、少しワクワクしていた。




