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ユアンのご両親は突然の息子の帰宅に驚いていた。夏休みは帰らないと連絡を受けたばかりなのに、その初日に姿を現したのだから。
マイルが皆を代表して挨拶し、ユアンの母親は俺たちにお茶を出してくれた。父親は仕事に戻ったそうだ。急ぎの馬車の部品の納品があるとのことで忙しいらしい。
「皆さんいつもありがとうございます。ユアンはうるさくしていませんか?この子は夢中になるともう話が止まらないから…」
「お母さん!僕たち相談があるから!」
ユアンが真っ赤になっていた。恥ずかしかったんだな。分かるよ、うちのオカンも俺が高校生の時、友達が家に来ると学校でのことを聞きたがったりしてたし。
俺たちはユアンの部屋に移動し、今日はこれからどうするかを相談することにした。思ったより早くホロウサの近くまで到着したからな。
「ホロウサまで馬車で2時間かかるんでしょ?今からだと歩くのはちょっと無理じゃない?」
「ヒマリもね、難しいと思うよ。どこか分からないところで夜になっちゃうかも。」
床に広げた地図を見ながらメイリンとヒマリが話している。
「そうだな、次の村までも微妙かな。マイル、まだ夕方前だけどさ、今日はこの村に泊まることにして、明日朝の移動が無難だと思う。」
ジェリコもマイルに相談している。うんうん、皆で旅をするってこういうことだよな。俺もパーティー組んで行動した時はこんな感じだったよ。
まるで親のように温かい目線で見ていると、マイルが皆に向けて話しだした。
「皆、今日はこの村で泊まるのはどう?ただ、宿もキャンプできる場所も無さそうだから、ユアンのご両親さえ良ければ、メイリンとヒマリはこちらに泊めてもらう。僕とジェリコ、エイトさんは森で野宿だ。」
なるほど妥当だ。初日から皆に無理をさせることはない。
「そうだな、ユアン。ふたりを泊めてくれるか、ご両親に聞いてくれるかな?」
俺がそう言うと、ユアンは頷いて聞きにいってくれた。
「マイル、それなら私たちも野宿でいいよ。ねえヒマリもそう思うよね。」
メイリンがそう言ったが、マイルは静かに首を振った。
「メイリン、僕たちは野宿の経験が無いだろ?泊めてもらえるなら、できる限りそうしたほうが良いんだ。僕たちは今夜、実際に野宿がどんな感じか様子を見る。エイトさん、良いですよね?」
「ああ、良いよ。時間も早いし、良さそうな場所を見つけて、テントも明るいうちに張ろう。」
ユアンと母親が戻ってきた。ふたりが泊まるのはもちろん大丈夫だけどと、俺たちの心配もしてくれた。
「ご心配ありがとうございます。勇者のエイトさんが護衛で居ますので、僕たちは大丈夫です。今後のために野宿の経験も僕たちには必要なんですよ。ユアンも安心して過ごせるように、今のうちに練習しておきます。」
マイルがそう説明すると、ユアンの母親は微笑んで言った。
「じゃあお夕食は、簡単なものだけど用意しますから、食べに戻ってきてね。お風呂も自由に使ってちょうだい。」
「じゃあヒマリたちもごはんのお手伝いします。メイリン、行こう。」
ふたりがユアンの母親とキッチンに向かうのを見送り、マイルはユアンにふたりをお願いねと言い、俺を振り返った。
「じゃあエイトさん。野宿の仕方をご教示願います。」
俺たちは森の中に戻った。街道寄りで見通しが良く、テントを3つ張るのに充分なスペースはすぐ見つかったので、彼らにレンタルテントをさっそく張ってみてもらうことにした。
ふたりでやる方法とひとりでやる方法のコツを教えると、最初は悪戦苦闘だったが、何度かやってみると、ふたりともちゃんと張ることに成功した。
「やったー!」
ハイタッチするマイルとジェリコ。
全員が野宿する時はひとつのテントをふたりで使うようにするが、今日は3人なのでひとりずつだ。
「なんかこういうの、子どもの頃に家族でキャンプに行って以来だー。」
ジェリコは早速テントの中にマットを敷いて、顔だけ出したり引っ込めたりして遊んでいる。
「ジェリコ、ふたりで使うのは大丈夫そう?」
「うん、中は思ったより余裕あるから大丈夫だよ。ようこそ俺んちへ。入って入って。」
苦笑しながら、ジェリコが張ったテントに入ってみる。中から押してみたがなかなか頑丈だ。通気性や夜間の保温性も高そうだな。
マイルの方のテントもチェック。うん、こちらも大丈夫だな。
「寝る時は焚き火して、俺が番をするからふたりはゆっくり寝て良いよ。」
そういうとジェリコが本気でびっくりしていた。
「えっ、こういうのは交代で見張りするんじゃないのか?冒険に関する本には大抵そう書いてあるぞ。」
「うん、冒険者同士ならそうなんだけど、俺は護衛として参加している。だから俺が寝ずの番ってことだ。」
「うーん。マイル、エイトさんはこう言ってるけど……どうする?」
ジェリコはマイルを見ながら話している。
でも俺が番をするのは当然のことなんだけどな。
マイルはジェリコをちらりと見てから、俺を見つめて言った。
「大丈夫ですよ、エイトさん。僕は結界を張れますから。」
「えっ、結界…?」
マイルは呪文を唱え始めた。これは魔道士が張る結界のものじゃないのか!?
すると俺たちのテントを囲むように魔法陣が現れ、魔力で包みこまれるのが見えた。
「マイル…お前、魔道士だったのか?」
マイルは俺を見つめながら、少し困ったような笑顔で答えた。
「そうだとも、違うとも言えますね。魔術が使える家系なので、幾つか覚えているだけですよ。夜には本格的に魔法陣の設置をします。これで安心して寝られるでしょ?」
そう言って、マイルはいたずらっぽくウインクした。
「ジェリコは知ってたのか!?」
「あー、まあ。皆が騒ぐと、マイルが嫌がるかと思って黙ってたけど。」
だからシンラ教授はあの時、マイルと俺が居たら安心と言っていたのだろうか。しかし、『魔術が使える家系』って、そう言えるのはこの世界であまり無いぞ。まさか…
「あ、ユアンが来たよ。夕飯ができたのかな。」
ユアンに気づいたマイルが俺たちに伝えた。
「あーテント張りで汗だくだ。お風呂借りなきゃ。」
そう言いながら本当に汗だくになった顔を手であおぐようにしているジェリコ。テントにこもって遊んでいたせいじゃないのか?
「ジェリコ、そんなに暑いなら風魔法で涼しくしてやろうか?」
「え、エイトさん、そんなのもできるんですか?」
「大丈夫…たぶん!」
「え…そのたぶん怖いんですけど。」
そんな俺たちの会話を聞きながら、大笑いするマイルと、側でくすくす笑うユアン。
マイルのことは思いもよらなかったが、おかげで今夜は落ち着いて眠れそうだ。




