第97話 代償の重さ
「……当然ですわね」
その言葉は、冷静だった。
だが。
どこか、わずかに重かった。
――南部都市リュシエル。
再び。
怒号が響いていた。
「なんでだ!」
「昨日まであっただろ!」
「ふざけるな!」
黒装束側の配給所。
人が押し寄せる。
だが。
ない。
食料が。
空の荷台。
動かない列。
そして。
苛立ち。
「どうなってるんだ!」
誰かが叫ぶ。
黒装束の男は、黙っていた。
答えない。
いや。
答えられない。
その沈黙が。
さらに怒りを煽る。
「……結局」
誰かが呟く。
「どっちも同じかよ」
沈黙。
その一言。
それだけで。
空気が崩れる。
信頼が。
崩れる。
――
一方。
連盟側。
配給は続いている。
だが。
空気は違う。
「……これ」
女が袋を見つめる。
「向こうから奪ったやつだろ」
沈黙。
誰も否定しない。
事実だからだ。
「……なんか」
「嫌だな」
その言葉。
それだけで。
空気が重くなる。
助かっている。
だが。
納得はしていない。
その歪みが。
じわじわと広がる。
――
王城。
「……各地で暴動拡大」
報告が続く。
「統一側だけでなく」
「連盟側でも発生」
沈黙。
ルーカスが低く言う。
「……両方か」
「はい」
イザベラが答える。
「どっちも信用されてない」
その言葉は、鋭かった。
だが。
正確だった。
エルミアが言う。
「……そんな」
「じゃあどうすれば」
誰も答えない。
正解はない。
レティシアは静かに言う。
「……これが」
一瞬の間。
「代償です」
沈黙。
「均衡を壊せば」
「均衡は守れない」
その言葉。
それが本質だった。
アルベルトが言う。
「後悔してるか」
短い問い。
だが。
重い。
レティシアは答える。
「いいえ」
即答だった。
「ですが」
一瞬の間。
「理解しています」
その目は、揺れていない。
「この選択は」
「正しくありません」
沈黙。
誰も否定しない。
「ですが」
「必要でした」
その言葉に。
ルーカスが頷く。
「……ああ」
短く。
「そうだな」
エルミアが言う。
「……それでも」
「苦しいです」
その声は震えていた。
レティシアは彼女を見る。
「ええ」
一瞬の間。
「苦しいです」
否定しない。
そのことが。
救いだった。
――
その時。
新たな報告。
「……統一側」
「動きあり」
空気が変わる。
「内容は」
ルーカスが問う。
兵が答える。
「指揮官クラスの移動確認」
一瞬の間。
「中心部へ集結」
沈黙。
レティシアの目が細くなる。
「……来ますわね」
その声は静かだった。
だが。
確信していた。
「本体が」
その一言で。
全員が理解する。
次は。
違う。
戦いの段階が。
一つ上がる。
今回は“代償”の回でした。
禁じ手には必ず反動があります。
そして今回は、それがしっかり返ってきました。
「正しいこと」と「必要なこと」は違う。
このズレが、この物語の核心です。
そして次はいよいよ、
敵の本体が動きます。
ここから一気にクライマックスへ入ります。
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次話もぜひお楽しみに。




