第98話 静かな集結
「……本体が」
その言葉は。
誰も口にしなかった。
だが。
全員が理解していた。
――南部中央域。
妙に、静かだった。
つい昨日まで。
怒号が響き。
混乱が渦巻いていた場所。
それが。
今は違う。
「……なんか、変じゃないか」
兵の一人が呟く。
人はいる。
だが。
騒がない。
ざわめかない。
ただ。
様子を見ている。
まるで。
何かを待っているように。
――
黒装束の拠点。
人が集まっている。
整然と。
無駄なく。
列を作る。
だが。
配給ではない。
違う。
“集結”だ。
「……揃っています」
側近が言う。
奥に立つ男に向かって。
その男は、動かない。
ただ。
前を見ている。
沈黙。
そして。
「……いい」
低い声。
それだけで。
全員の背筋が伸びる。
「移る」
短い命令。
無駄がない。
そして。
誰も疑問を持たない。
――
王城。
「……静まり返っています」
報告が入る。
「暴動も沈静化」
「配給の混乱も減少」
エルミアが言う。
「……いいことじゃないんですか」
だが。
誰も頷かない。
イザベラが言う。
「違うわね」
「嵐の前よ」
沈黙。
ルーカスが問う。
「……動くか」
レティシアは答える。
「ええ」
一瞬の間。
「完全に」
その声は静かだった。
だが。
確信している。
「今までとは違います」
アルベルトが笑う。
「いいじゃねえか」
「ようやく本番だ」
だが。
その笑いは薄い。
本能で分かっている。
相手が違うと。
その時。
新たな報告。
「……敵側」
「中央へ集結中」
空気が変わる。
「どこへ」
ルーカスが問う。
兵が答える。
「南部中央域」
一瞬の間。
「リュシエル」
沈黙。
その地名。
全員が知っている。
今までの中心。
そして。
これからの。
決戦地。
レティシアが静かに言う。
「……来ます」
その一言。
それだけで。
全てが決まる。
――
リュシエル。
人々が集まっている。
だが。
騒がない。
ただ。
見ている。
中央広場。
空いた空間。
まるで。
舞台のように。
誰かが来るのを。
待っている。
その時。
遠くで、足音が響く。
ゆっくりと。
確実に。
誰も指示していない。
だが。
人が道を空ける。
自然に。
無意識に。
そして。
その中心に。
影が現れる。
まだ遠い。
だが。
分かる。
“違う”と。
空気が変わる。
誰も声を出さない。
ただ。
見ている。
その存在を。
その足取りを。
一歩。
また一歩。
近づいてくる。
そして。
誰かが、呟く。
「……あれが」
一瞬の間。
「統一」
その言葉が。
静かに。
広がった。
今回は“溜め”の回です。
嵐の前の静けさ。
そして、ついに本体が動きました。
次話はいよいよカイゼル登場です。
ここがこの章最大の山場になります。
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次話、かなり熱いです。




