第96話 均衡の外へ
「均衡を壊します」
その言葉は。
静かだった。
だが。
誰よりも重かった。
――王城・戦略室。
沈黙が落ちる。
誰も、すぐには言葉を返せない。
ルーカスが低く問う。
「……何をする」
レティシアは答える。
「止めます」
一瞬の間。
「彼らの流れを」
アルベルトが目を細める。
「どうやってだ」
レティシアは言う。
「物流です」
その一言。
それだけで。
全員が理解する。
イザベラが笑う。
「……なるほど」
「奪うのね」
「ええ」
レティシアは頷く。
「供給路を遮断します」
沈黙。
エルミアが言う。
「……それって」
「同じことじゃないですか」
その言葉は、正しい。
レティシアは頷く。
「ええ」
一瞬の間。
「同じです」
空気が凍る。
「彼らがやっていることと」
「本質的には変わりません」
沈黙。
「ですが」
レティシアの声がわずかに強くなる。
「違いがあります」
ルーカスが問う。
「何だ」
「期間です」
短く。
「限定的に行います」
「そして」
一瞬の間。
「必ず戻します」
沈黙。
その保証はない。
だが。
それでも。
やるしかない。
アルベルトが笑う。
「甘いな」
「だが嫌いじゃない」
イザベラが言う。
「覚悟はできてるのね」
「ええ」
レティシアは答える。
「責任は」
一瞬の間。
「私が持ちます」
その速さに。
誰も言葉を挟めない。
ルーカスが目を閉じる。
そして。
開く。
「……実行する」
短い言葉。
だが。
それで全てが決まる。
――
その夜。
動きは静かだった。
だが。
正確だった。
南部。
東部。
西部。
同時に。
複数の輸送路が遮断される。
検問。
封鎖。
奪取。
無駄がない。
そして。
確実に。
流れが止まる。
――
翌朝。
変化は、すぐに現れた。
黒装束側。
「……来てない?」
誰かが呟く。
荷車が来ない。
いつも通りのはずが。
来ない。
「どういうことだ」
「遅れてるのか?」
だが。
違う。
来ない。
完全に。
止まっている。
ざわめきが広がる。
不安が生まれる。
その時。
別の方向から。
車輪の音。
人々が振り向く。
連盟側。
荷車が来る。
確実に。
止まっていない。
その対比。
それだけで。
空気が変わる。
「……こっちは来てる」
「どういうことだ」
「向こうは?」
混乱が広がる。
初めて。
黒装束側が。
“止まる側”になった。
――
王城。
「……効果、確認」
報告が入る。
「統一側の供給、停止」
ルーカスが息を吐く。
「……止めたか」
「はい」
レティシアは頷く。
だが。
その表情は変わらない。
重いまま。
エルミアが言う。
「……これで」
「勝てますか」
沈黙。
レティシアは答える。
「いいえ」
一瞬の間。
「ここからです」
その言葉。
それだけで。
まだ終わっていないことが分かる。
その時。
新たな報告。
「……暴動発生」
空気が凍る。
「複数地域」
「原因」
一瞬の間。
「連盟の封鎖」
沈黙。
誰も言葉を発せない。
レティシアは目を閉じる。
そして。
開く。
「……当然ですわね」
静かに。
だが。
覚悟は揺るがない。
その選択は。
もう。
取り消せない。
ついに“禁じ手”が発動しました。
今回のテーマは、
「正しさを守るために、正しくないことをするか」です。
レティシアは一線を越えました。
そして当然、代償も発生します。
ここから一気にクライマックスへ向かいます。
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次話は「代償」です。かなり重い回になります。




