第93話 選べなくなる仕組み
「……次が来ます」
その言葉は、予想ではなかった。
確信だった。
――そして。
それは、早すぎる形で現れた。
――南部都市リュシエル。
「……あれ?」
列の中で、誰かが声を漏らす。
違和感。
ほんの小さな。
だが。
確実に。
「……札がない?」
ざわめきが広がる。
連盟の配給所。
昨日まで配られていた札が、足りない。
「どういうことだ?」
「配布分が……消えてる?」
役人が慌てる。
「確認中です!」
「少々お待ちください!」
だが。
列は止まる。
動かない。
それだけで。
空気が変わる。
「……またかよ」
誰かが呟く。
その一言。
それだけで。
不信が広がる。
昨日、改善したはずだった。
今日、止まる。
それだけで。
信頼は揺らぐ。
その時。
別の声が上がる。
「こっちはやってるぞ!」
振り向く。
黒装束側。
変わらない。
止まらない。
いつも通り。
速い。
確実。
その対比。
それが。
致命的だった。
人が動く。
列から、離れる。
ゆっくりと。
だが確実に。
黒装束の方へ。
――
役人が叫ぶ。
「待ってください!」
「すぐ再開します!」
だが。
届かない。
なぜなら。
“今”が欲しいからだ。
その時。
兵が走り込む。
「報告!」
「配給札の保管庫、荒らされています!」
空気が凍る。
「……何だって?」
「内部侵入の可能性!」
沈黙。
理解が追いつかない。
だが。
結果だけは明確。
止まった。
また。
――
王城。
「……やられました」
報告が入る。
静かに。
だが。
重く。
「配給札の盗難」
「複数拠点で同時発生」
ルーカスが机を叩く。
「内部か」
「はい」
イザベラが言う。
「完全に狙ってる」
エルミアが言う。
「……そんな」
「なんでこんなこと」
レティシアは静かに言う。
「簡単です」
一瞬の間。
「選べなくするためです」
沈黙。
「我々の仕組みは」
「選択を前提にしています」
「ですが」
一瞬の間。
「その選択肢が機能しなければ」
全員が理解する。
「……崩れる」
ルーカスが呟く。
「ええ」
レティシアは頷く。
「彼らは」
「選ばせる戦いを」
「成立させない」
その言葉。
それが本質だった。
アルベルトが笑う。
「なるほどな」
「頭いいじゃねえか」
だが。
それは敵だ。
だから厄介。
「どうする」
ルーカスが問う。
レティシアは答える。
「再構築します」
一瞬の間。
「前提を」
エルミアが言う。
「……前提?」
「はい」
レティシアは言う。
「“仕組み”に依存している限り」
「崩されます」
沈黙。
「ならば」
一瞬の間。
「仕組みにしない」
空気が変わる。
イザベラが目を細める。
「……どういうこと?」
レティシアは言う。
「人です」
短く。
「直接」
その言葉に。
全員が理解する。
管理ではなく。
判断ではなく。
“現場”。
アルベルトが笑う。
「いいな」
「泥臭い」
ルーカスが頷く。
「やる」
その時。
さらに報告。
「……暴動再発」
空気が凍る。
「複数都市」
「規模拡大」
沈黙。
レティシアの目が細くなる。
「……間に合いませんわね」
その声は静かだった。
だが。
次の一手を。
すでに考えていた。
ここで一気に崩されました。
今回のポイントは、
「仕組みは壊される」という現実です。
いい戦略でも、
機能しなければ意味がない。
そして敵はそこを正確に突いてきます。
ここからさらに“難しい戦い”に入ります。
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次話は「現場戦」です。かなり熱い展開になります。




