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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 朝凪ことは


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第88話 止まった流れ

 違和感は、静かに広がっていた。


 最初は些細なものだった。


 市場の一角。


 いつも並んでいるはずの穀物が、なかった。


「……今日は遅れてるのか?」


 男が店主に声をかける。


 だが、返ってきたのは曖昧な表情だった。


「いや……来てない」


「来てない?」


「昨日からだ」


 その一言で、空気が少しだけ変わる。


 だが、まだ誰も深刻には捉えない。


 遅れはある。


 たまには。


 そういうものだ。


 ――そのはずだった。


 翌日。


 並ばない。


 さらに翌日。


 減る。


 そして、三日目。


 完全に消えた。


 ――


「……全部、止まってる」


 別の男が低く言った。


 店の棚は空。


 いつもは積まれていた袋が、一つもない。


 乾いた木箱だけが残っている。


「どういうことだよ……」


 誰かが呟く。


 だが、答えはない。


 ただ。


 人が増えていた。


 市場に。


 いつもより多く。


 何もない場所に、集まっている。


 何かを求めて。


 だが、ない。


 その時。


「連盟の配給は?」


 声が上がる。


「……まだ来てない」


「遅れてるって聞いたぞ」


「いつまでだよ!」


 ざわめきが広がる。


 不満が、少しずつ形になる。


 だが。


 まだ“怒り”ではない。


 ただの不安。


 その段階だった。


 ――


 王城。


「……異常です」


 報告が上がる。


 レティシアの前に、書類が並ぶ。


「南部から東部にかけて、物流停止」


「原因は不明」


 ルーカスが眉をひそめる。


「事故か?」


「いいえ」


 レティシアは即答する。


「広すぎます」


 一瞬の間。


「意図的です」


 空気が変わる。


 アルベルトが腕を組む。


「つまり?」


「操作されています」


 短く。


 確実に。


 イザベラが言う。


「誰が」


 沈黙。


 レティシアは答えない。


 まだ確証がない。


 だが。


「……昨日の件と繋がります」


 エルミアが言う。


「不満の声が増えているって」


「ええ」


 レティシアは頷く。


「偶然ではありません」


 ルーカスが低く言う。


「……狙いは」


 レティシアはゆっくり言う。


「“止めること”です」


 一瞬の間。


「流れを」


 沈黙。


 それは、単純だ。


 だが。


 致命的。


 人は動く。


 物も動く。


 その流れが止まれば――


「……混乱する」


 ルーカスが呟く。


「ええ」


 レティシアは言う。


「そして」


 一瞬の間。


「次に何が来るか」


 その言葉の意味を。


 全員が理解しかけた、その時。


 ――


 市場。


 ざわめきが止まる。


 音が変わる。


 遠くから。


 何かが来る。


 車輪の音。


 重い音。


 ゆっくりと。


 確実に。


 人々が振り向く。


 砂埃の向こう。


 影が見える。


「……なんだ?」


 誰かが呟く。


 荷車。


 複数。


 そして。


 その側面に刻まれた印。


 見慣れない。


 だが。


 妙に目に残る。


 円と線。


 単純な紋章。


 荷車が止まる。


 布が外される。


 その瞬間。


 空気が変わった。


「……食料」


 誰かが呟く。


 袋。


 穀物。


 保存肉。


 確かにそこにある。


 “止まっていたもの”が。


 今。


 目の前にある。


 黒装束の男が前に出る。


 ゆっくりと。


 周囲を見渡す。


「配る」


 短い言葉。


 それだけ。


 沈黙。


 誰も動けない。


 理解が追いつかない。


 だが。


 腹は減っている。


 その時。


 一人が動く。


 恐る恐る。


 袋を手に取る。


 重い。


 本物だ。


 次の瞬間。


 空気が崩れる。


 人が動く。


 一斉に。


 だが。


「並べ」


 男の一言で止まる。


 そして。


 整列する。


 誰も逆らわない。


 その異様さに。


 誰も気づかない。


 ただ。


 食料がある。


 それだけで十分だった。


 男が言う。


「我々は」


 一瞬の間。


「止めない」


 その言葉が。


 静かに広がる。


 誰かが呟く。


「……連盟は止まったのに」


 その一言。


 それだけで。


 空気が決まる。


 正しさではない。


 速さでもない。


 ただ。


 “届いたかどうか”。


 それが、すべてだった。


 ――


 王城。


 レティシアが目を閉じる。


 そして。


 ゆっくり開く。


「……来ましたわね」


 その声は静かだった。


 だが。


 確信していた。


「“次”が」


 流れは、もう止まらない。

ここから一気に「流れ」が変わります。


今回のポイントは、

“止めた側”と“動かした側”。


正しさではなく、

「誰が今助けたか」が全てになる段階に入りました。


ここから一気に加速していきます。


面白いと感じていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。


次話は「揺れ」です。かなり重要回になります。

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