第86話 帝国の異変
ガルディア帝国・帝都ヴァルクレイア。
朝の市場。
本来ならば、人で溢れている時間だった。
だが。
「……おかしいな」
商人が呟く。
客が少ない。
いや、それだけではない。
「荷が来ない?」
「帝都行きの隊商が止まってるらしい」
「なんでだ?」
ざわめきが広がる。
原因は一つではない。
だが、共通している。
――流れが止まっている。
穀物が来ない。
鉄が遅れる。
薬が届かない。
帝国の物流が、目に見えて鈍っていた。
その中で、一人の老商人が言った。
「連盟だな」
沈黙。
「……ああ」
誰も否定しない。
王国と商業連合。
そして小国群。
大陸の“外側”がまとまった。
それは帝国にとって、初めての状況だった。
「今までは」
「帝国が流れを作ってた」
別の商人が言う。
「だが今は違う」
沈黙。
「流れを決めてるのは……向こうだ」
その言葉が、じわじわと広がる。
恐怖のように。
――
帝国・宰相府。
リヒャルトは報告書を読んでいた。
机の上には山のような資料。
すべて同じ内容。
物流低下。
市場停滞。
地方不満。
「……予想より早い」
小さく呟く。
秘書が言う。
「帝国商会の影響力が低下しています」
「連盟側の市場が主導権を握り始めています」
リヒャルトは頷く。
「当然だ」
落ち着いた声。
「市場は安定を選ぶ」
そして。
「今、安定しているのは連盟だ」
沈黙。
秘書が不安そうに言う。
「このままでは……」
「崩れるか?」
リヒャルトは言葉を引き取る。
少し考える。
そして。
「いや」
静かに首を振る。
「まだだ」
だが。
「歪みは始まっている」
その言葉は重かった。
帝国は強い。
だが。
その強さは、流れに依存していた。
物流。
市場。
支配。
すべてが繋がっている。
そして今。
その一部が、切られ始めていた。
リヒャルトは窓の外を見る。
帝都。
まだ変わっていない。
だが。
「……気づくのは時間の問題だ」
沈黙。
そして。
「元帥は?」
秘書が答える。
「軍の再編を進めています」
リヒャルトは小さく笑う。
「そうか」
「なら問題ない」
だがその目は。
わずかに細くなる。
軍は強い。
だが。
軍は市場を動かせない。
リヒャルトは静かに呟く。
「均衡……か」
その言葉には、わずかな苛立ちが混じっていた。
帝国はまだ崩れていない。
だが。
確実に、揺れ始めていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




