第84話 帝国の最後通告
王城・謁見の間。
空気は張り詰めていた。
重厚な扉が開き、帝国の使節団が入ってくる。
黒と銀の外套。
整然とした足取り。
その先頭に立つ男は、冷たい目をしていた。
「ガルディア帝国特使、エーベルハルトと申す」
低く、よく通る声。
ルーカスは玉座から静かに応じる。
「歓迎する」
形式的なやり取り。
だが、場の全員が分かっている。
これは挨拶ではない。
**衝突だ。**
使者は一歩進み出る。
「本日は、帝国の正式な意向を伝えに来た」
書簡が差し出される。
近衛が受け取り、ルーカスへ。
開く。
短い。
だが、明確。
**『大陸連盟構想の即時撤回を要求する』**
沈黙。
広間の空気が重くなる。
エルミアがわずかに息を呑む。
レティシアは微動だにしない。
アルベルトは腕を組んだまま。
ルーカスは書簡を閉じた。
「理由を聞こう」
静かな声。
使者は即答する。
「連盟は大陸の均衡を乱す」
「帝国は秩序を重んじる」
レティシアが小さく笑う。
「ずいぶんと都合の良い秩序ですこと」
使者の視線が彼女に向く。
「発言の立場をわきまえよ」
「私は王国の補佐ですわ」
即答。
火花が散る。
ルーカスが軽く手を上げる。
「続けろ」
使者は言う。
「帝国は、連盟が成立した場合」
一瞬、間を置く。
「必要な措置を取る」
遠回しな言い方。
だが意味は明確。
**軍事行動。**
空気が凍る。
だがルーカスは動じない。
「必要な措置とは」
あえて聞く。
使者は言う。
「大陸の安定を守るための行動だ」
レティシアが静かに呟く。
「侵攻ですわね」
使者は否定しない。
沈黙。
その沈黙を破ったのは、アルベルトだった。
「面白いな」
低い声。
「帝国は“戦争しない”と言っていたはずだが」
使者の眉がわずかに動く。
「状況が変われば判断も変わる」
「つまり」
アルベルトは笑う。
「都合次第か」
空気が一段冷える。
ルーカスが一歩前に出る。
玉座から降りる。
使者の正面へ。
その動きに、場の全員が息を呑む。
「王国の答えを伝える」
静かな声。
だが、はっきりと。
「連盟構想は撤回しない」
沈黙。
使者の目が鋭くなる。
「それは帝国への挑戦と受け取る」
「構わない」
ルーカスは即答した。
空気が張り詰める。
「だが」
彼は続ける。
「これは帝国を倒すための構想ではない」
「戦争を防ぐための構想だ」
使者は冷たく言う。
「力でしか秩序は保てない」
「違う」
ルーカスは言い切る。
「力だけでは」
「秩序は続かない」
沈黙。
その言葉は、帝国の思想そのものを否定していた。
レティシアが一歩前に出る。
「帝国は強い」
「ですが」
「強さは永続しません」
使者の目が細くなる。
「均衡は」
「続く仕組みです」
静かな言葉。
だが鋭い。
使者はしばらく黙る。
そして言った。
「後悔することになる」
ルーカスは答える。
「後悔はしない」
「選んだのだから」
沈黙。
長い沈黙。
やがて使者は踵を返す。
「帝国は行動する」
それだけ言い残し、退出する。
扉が閉まる。
重い音。
静寂。
エルミアが小さく呟く。
「……来ますね」
アルベルトが言う。
「来るな」
短い断言。
レティシアは微笑む。
「ええ」
「だからこちらも動きます」
ルーカスは窓の外を見る。
王国の旗。
その先にある大陸。
「均衡は」
静かに言う。
「試される」
風が強く吹いた。
嵐の前の風だった。
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