第82話 小国の希望
南方小国群――リュミナス諸侯連合。
王国や帝国に比べれば、あまりにも小さな国々。
軍も弱く、資源も乏しい。
だが。
彼らには一つだけ共通点があった。
**帝国に怯えている。**
石造りの小さな城。
その会議室で、一人の少女が地図を見つめていた。
淡い金髪。
青い瞳。
年は十八ほど。
だがその表情は、幼さよりも責任を帯びている。
彼女の名は――
**エルミア・ルーンフェルト。**
小国ルーンフェルトの王女。
「帝国の動きは」
彼女が問う。
側近の騎士が答える。
「国境付近で軍の再配置が確認されています」
「侵攻の兆候は?」
「現時点ではありません」
エルミアは静かに息を吐く。
「……“今は”ですね」
沈黙。
それが現実だった。
帝国はいつでも来られる。
小国はそれを止められない。
「王国の連盟構想」
彼女は机の上の書簡を見る。
「信じられると思う?」
側近は答えに詰まる。
「分かりません」
正直な言葉。
エルミアは小さく笑う。
「そうよね」
王国は強くない。
帝国ほどの力もない。
だが。
あの王は。
均衡を語った。
それは、小国にとって初めて聞く言葉だった。
「……行きましょう」
エルミアが立ち上がる。
「王国へ」
側近が驚く。
「姫様!?」
「直接確かめる」
彼女の目はまっすぐだった。
「本当に守る気があるのか」
――
王都。
王城・謁見の間。
ルーカスが座っている。
その前に立つのは、小柄な少女。
エルミア。
護衛は最小限。
だが、その覚悟は本物だ。
「ルーンフェルト王国王女、エルミアと申します」
彼女は深く一礼する。
「遠路感謝する」
ルーカスが言う。
だがエルミアはすぐ顔を上げた。
「質問があります」
空気が少し張る。
「構わない」
ルーカスは答える。
エルミアは迷わない。
「王国は」
「本当に私たちを守るつもりですか」
沈黙。
レティシアが静かに彼女を見る。
イザベラも興味深そうに微笑む。
アルベルトは腕を組んだまま。
ルーカスはゆっくり答える。
「守る」
短い。
だが、エルミアは首を振る。
「違います」
その場の空気が変わる。
「“守る”では足りません」
彼女は一歩踏み出す。
「帝国が来たら」
「私たちは一日で終わる」
沈黙。
「連盟は」
「それを止められるのですか」
重い問い。
理想ではなく、現実の話。
ルーカスはしばらく黙る。
そして。
静かに言った。
「一人では守れない」
エルミアの目が揺れる。
「だが」
「一緒なら守れる」
沈黙。
「連盟は」
「強い国が弱い国を守る仕組みではない」
「弱い国が」
「集まって強くなる仕組みだ」
エルミアの呼吸が止まる。
「あなたの国も」
「他の小国も」
「連盟の一部になる」
「それが力になる」
静かな言葉。
だが重い。
エルミアはしばらく何も言えなかった。
そして。
ゆっくり跪く。
「……参加します」
全員が少し驚く。
決断が早い。
「ルーンフェルトは」
「大陸連盟に参加します」
その声は震えていない。
覚悟の声だった。
レティシアが微笑む。
「賢明ですわ」
イザベラが軽く拍手する。
「これで一つ、輪ができた」
アルベルトが低く言う。
「帝国は嫌がるぞ」
ルーカスは静かに頷く。
「構わない」
彼はエルミアを見る。
「歓迎する」
その言葉に。
エルミアは初めて少しだけ安心した表情を見せた。
窓の外。
王国の旗が風に揺れる。
小国が一つ、動いた。
それは小さな一歩。
だが。
大陸の均衡を動かす一歩だった。
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