第77話 教国の拒絶
教国ルミエル・大聖堂会議室。
白い石の円卓の周囲に、大司教たちが集まっていた。
壁には巨大な聖印。
神の国の象徴。
中央に座るのは大司教セラフィエル。
その隣に聖女セラフィナ。
机の中央には、王国からの文書が置かれている。
信仰協定案。
そして大陸連盟構想。
会議は長く続いていた。
「王国の提案は巧妙だ」
一人の司祭が言う。
「宗教中立」
「聞こえは良い」
「だが実質は」
「信仰を政治の外に追い出す仕組み」
別の司祭が頷く。
「もし連盟が成立すれば」
「教国は外交力を失う」
沈黙。
セラフィエルが静かに言う。
「神の権威は」
「国家の枠組みの外にある」
「それが教国の原則」
誰も反論しない。
この思想が、この国の存在理由だからだ。
セラフィナだけが、少し目を伏せている。
セラフィエルは彼女を見る。
「聖女」
「あなたはどう思う」
視線が集まる。
セラフィナはゆっくり言う。
「王国の提案は」
「戦争を防ぐ可能性があります」
ざわめき。
「ですが」
彼女は続ける。
「信仰が政治の外に出るなら」
「教国は弱くなる」
沈黙。
セラフィエルは小さく頷く。
「正しい」
彼は宣言する。
「教国は」
「大陸連盟構想を拒否する」
それが結論だった。
司祭たちは一斉に頷く。
会議は終了する。
だが。
セラフィナの心は晴れない。
夜。
大聖堂の回廊。
彼女は一人で歩いていた。
窓から月光が差し込む。
「……これで」
「本当に良かったのでしょうか」
小さく呟く。
その時。
回廊の影から声がした。
「聖女様」
振り向く。
黒衣の男。
帝国の使者だ。
以前、聖堂で会った男。
「また来たのですか」
セラフィナが言う。
「ええ」
男は穏やかに微笑む。
「帝国は教国の決断を歓迎しています」
セラフィナは黙る。
男は続ける。
「王国の連盟は」
「帝国の力を弱める」
「だが同時に」
「教国の力も弱める」
それは事実でもある。
男は静かに言う。
「帝国は」
「教国の独立を守る」
「信仰の自由も」
セラフィナは眉をひそめる。
「帝国は戦争を起こす国です」
男は笑う。
「戦争は」
「秩序を守るために必要な時もある」
沈黙。
そして男は最後に言った。
「大陸は今」
「均衡か」
「力か」
「選ぼうとしている」
彼は一礼する。
「聖女様」
「あなたはどちらを選びますか」
男は去っていく。
回廊には再び静寂が戻る。
セラフィナは月を見る。
王国。
帝国。
信仰。
均衡。
すべてが交差している。
彼女は小さく呟く。
「神よ」
「私は」
「何を選ぶべきなのでしょうか」
その問いの答えは、まだ遠かった。
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