第74話 神は国家を越えるか
教国ルミエル。
白い石の都は、常に鐘の音に包まれている。
街の中心には巨大な大聖堂がそびえ立ち、その尖塔は雲に届くほど高い。
王国や帝国と違い、この国を治めるのは王ではない。
神の代理人。
大司教会議。
そして――聖女。
大聖堂の奥、円形の会議室。
重厚な扉が閉じられ、数人の高位司祭が席に着いていた。
中央の席に座る老人が口を開く。
「王国が提案した連盟構想」
声は低く、冷たい。
「これは信仰への干渉である」
教国大司教、セラフィエル。
この国の実質的支配者だ。
司祭の一人が言う。
「連盟は宗教中立を掲げています」
「つまり」
「信仰を政治の下に置くという意味です」
空気が重くなる。
セラフィエルは静かに言う。
「神は国家の上にある」
「それが教国の原則だ」
机の上には一通の書簡が置かれている。
王国からの外交文書。
連盟構想への参加打診。
司祭の一人が言う。
「もし拒否すれば」
「教国は孤立します」
別の司祭が続ける。
「商業連合は王国についた」
「小国も揺れている」
沈黙。
その沈黙を破ったのは、若い女性の声だった。
「それでも」
全員の視線が向く。
白い衣。
金の刺繍。
教国の象徴。
**聖女セラフィナ。**
まだ若い。
二十歳ほど。
だが、その存在は教国の精神そのものだ。
「連盟は」
彼女はゆっくり言う。
「戦争を防ぐ構想です」
司祭の一人が眉をひそめる。
「聖女よ」
「信仰は政治に関わらない」
「それが原則だ」
セラフィナは静かに答える。
「ですが」
「民は戦争で死にます」
沈黙。
「もし連盟が戦争を防ぐなら」
「神の意志に反するとは言えません」
空気が一気に緊張する。
セラフィエルがゆっくり彼女を見る。
「聖女」
「あなたは王国の思想に影響されているのではないか」
冷たい声。
だがセラフィナは目を逸らさない。
「いいえ」
「私は祈りの中で考えました」
彼女は言う。
「神は」
「人が争うことを望むのでしょうか」
司祭たちがざわめく。
これは危険な問いだ。
信仰の根幹に触れる。
セラフィエルはゆっくり立ち上がった。
「聖女」
「信仰は疑うものではない」
彼は王国の書簡を手に取る。
「この連盟構想」
「教国は参加しない」
短い言葉。
決定だった。
だが。
セラフィナは小さく呟く。
「本当に」
「それで良いのでしょうか」
セラフィエルは答えない。
彼はただ命じる。
「王国に返答を送る」
「教国は連盟を拒否する」
司祭たちが一斉に頷く。
会議は終わった。
人々が去っていく。
広い聖堂に残るのは、セラフィナ一人。
彼女は祭壇の前で跪く。
「神よ」
小さな祈り。
「均衡は」
「罪なのでしょうか」
遠く。
王国では新しい秩序が生まれようとしている。
だが。
信仰の国は、それを拒んだ。
こうして。
大陸連盟構想は。
最初の大きな壁にぶつかった。
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