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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 朝凪ことは


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第73話 帝国の沈黙

 ガルディア帝国・首都ヴァルハイム。


 巨大な石造宮殿の最奥。


 帝国宰相リヒャルト・ヴァイスは、静かに書簡を読んでいた。


 王国からの正式回答。


 短い。


 簡潔。


 そして、冷静だった。


『王国は連盟構想を撤回しない』


 それだけだ。


 リヒャルトはゆっくりと紙を机に置いた。


「……均衡の王」


 小さく呟く。


 怒りはない。


 むしろ感心していた。


「思った以上に早い」


 隣に立つ秘書が言う。


「連盟構想は大陸で広がりつつあります」


「商業連合も支持」


「小国群も興味を示しています」


 リヒャルトは窓の外を見る。


 帝国の軍旗が風に揺れている。


 大国。


 強大な軍。


 圧倒的な国力。


 それが帝国の誇りだった。


 だが。


 今、王国は別の武器を使っている。


「均衡」


 彼は呟く。


「厄介な言葉だ」


 強者を直接否定しない。


 だが、強者の自由を縛る。


「戦争を起こせば」


「連盟ができる」


「起こさなければ」


「連盟は拡大する」


 秘書が言う。


「つまり王国は」


「どちらでも勝てる位置にいます」


 リヒャルトは静かに笑った。


「若い王だが」


「実に老獪だ」


 だが。


 帝国は一枚岩ではない。


 扉が荒々しく開いた。


 重い軍靴の音。


「宰相」


 入ってきた男は巨体だった。


 鋼の鎧。


 傷だらけの顔。


 帝国軍元帥。


 **レオンハルト・クラウゼ。**


 帝国最強の将軍。


 戦争の象徴。


「王国の連盟構想」


「聞いたぞ」


 低い声。


 威圧感。


 リヒャルトは振り向く。


「ええ」


「実に面白い提案です」


 レオンハルトは机を叩いた。


「面白いだと?」


「これは帝国への挑戦だ」


「王国ごときが」


「大陸の秩序を語る」


 怒り。


 だがリヒャルトは動じない。


「元帥」


「怒りは理解します」


「だが」


「戦争は得策ではありません」


 レオンハルトの目が細くなる。


「なぜだ」


「商業連合」


 リヒャルトは言う。


「彼らが王国についた」


「海路が止まれば」


「帝国も損をする」


 沈黙。


 レオンハルトは腕を組む。


「ならどうする」


「放っておくのか」


 リヒャルトは地図を見る。


 王国。


 商業連合。


 小国群。


 そして帝国。


「連盟はまだ構想段階です」


「芽のうちに摘む」


「どうやって」


 リヒャルトの目が冷える。


「内側から」


 沈黙。


「王国は均衡国家」


「均衡とは」


「内部の揺れで崩れる」


 レオンハルトが笑う。


「つまり」


「王国を割る」


「そういうことです」


 リヒャルトは静かに言う。


「そして」


 彼はもう一つの地図を見る。


 北。


 教国ルミエル。


「宗教国家は」


「政治の枠組みを嫌う」


 レオンハルトが言う。


「教国を動かすのか」


「ええ」


 リヒャルトは頷く。


「王国の連盟構想は」


「信仰を制限する」


「教国は必ず反発する」


 沈黙。


 帝国元帥はゆっくり笑った。


「なるほど」


「戦わずに」


「王国を包囲する」


 リヒャルトは書簡を閉じた。


「均衡の王」


「あなたは賢い」


「だが」


 窓の外の空を見上げる。


「大陸は」


「理想だけでは動かない」


 帝国は動き始める。


 王国。


 商業連合。


 そして教国。


 大陸の均衡は。


 今、静かに揺れ始めていた。

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