第72話 商都の賛同
王都の港は、朝から騒がしかった。
巨大な白帆船がゆっくりと岸へ寄せてくる。
船首には、青銀の旗。
商業都市連合セレスティアの紋章だ。
港の人々はざわめいていた。
「連合の代表船だ」
「王城の宣言のあとすぐに来たぞ」
噂はすでに王都全体に広がっている。
**大陸連盟構想。**
その中心にいるのが、王国とセレスティア。
船の甲板に、ひとりの女性が立っていた。
蒼いドレス。
銀色の髪。
イザベラ・ノクス。
商業連合の代表理事。
彼女は王都を見下ろし、小さく笑う。
「思い切りましたわね」
横に立つ秘書が言う。
「王国の宣言は大陸を揺らしています」
「当然よ」
イザベラは答える。
「秩序を変える提案だもの」
彼女は港の奥に見える王城を見つめる。
「でも」
「嫌いじゃない」
王城。
応接室。
ルーカスとレティシア、そしてアルベルトが席についている。
扉が開く。
「商業連合セレスティア代表、イザベラ・ノクス」
彼女が入ってくる。
歩き方が自信に満ちている。
「またお会いしましたね、陛下」
「歓迎します」
ルーカスが立ち上がる。
形式的な挨拶が終わると、すぐに本題に入る。
「昨日の宣言」
イザベラが言う。
「大陸中の市場がざわめいています」
「帝国も」
「教国も」
レティシアが静かに答える。
「予想通りです」
「ええ」
イザベラは笑う。
「だから私はここに来た」
彼女は椅子に腰掛ける。
「商業連合セレスティアは」
一瞬、間を置く。
「**大陸連盟構想を支持します**」
沈黙。
だがそれは予想していた答えでもある。
「理由は二つ」
イザベラは指を二本立てた。
「一つ」
「戦争は市場を壊す」
「二つ」
「均衡は利益を生む」
実に商人らしい答えだ。
アルベルトが腕を組む。
「帝国は黙っていない」
「もちろん」
イザベラは肩をすくめる。
「だからこそ商業連合が必要なの」
彼女はテーブルの地図を指す。
海路。
交易路。
物流拠点。
「大陸の貿易は、ほとんどが私たちを通る」
「帝国が戦争を起こせば」
「市場が止まる」
レティシアが頷く。
「つまり」
「経済による抑止力」
「そういうこと」
イザベラは満足そうに微笑む。
「王国は理念を出した」
「なら」
「私たちは現実を作る」
ルーカスが言う。
「協議機関を設置する」
「王国、商業連合、小国群」
「連盟の骨格だ」
「いいわ」
イザベラは即答する。
「ただし」
レティシアが微笑む。
「条件ですね」
「当然」
イザベラは指を鳴らす。
「連盟の経済機関は」
「セレスティアに置く」
アルベルトが笑う。
「商人らしい」
「でしょう?」
イザベラは微笑む。
だが次の瞬間、彼女の表情が少し変わった。
「ただ」
「問題が一つある」
「教国ですね」
レティシアが言う。
「ええ」
イザベラは頷く。
「宗教は市場より頑固」
その時。
近衛騎士が急いで入ってきた。
「陛下!」
「帝国からの使者が到着しました」
部屋の空気が変わる。
ルーカスが言う。
「内容は」
「帝国宰相リヒャルトの書簡です」
レティシアの目が細くなる。
嫌な予感。
書簡が開かれる。
そこには短い一文。
**『連盟構想の即時撤回を要求する』**
沈黙。
アルベルトが低く言う。
「早いな」
イザベラが笑う。
「むしろ遅いくらいよ」
ルーカスは書簡を静かに畳む。
そして言った。
「撤回しない」
短い言葉。
だが重い。
レティシアが微笑む。
「これで大陸は完全に動きますわ」
窓の外。
海の風が強く吹いていた。
王国と商業連合。
二つの歯車が噛み合った。
そしてその回転は。
帝国の秩序を揺らし始めていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




