第63話 灰色の刃
王都・港湾区、触媒精製実演場。
昼。
帝国商人を招いた公開実演。
王国触媒の精製工程を“部分公開”する。
灰色の商人クラウスも列席していた。
冷静な目で、設備を観察する。
「美しい仕組みだ」
低い呟き。
壇上に立つレティシアは、説明を続ける。
「こちらが安定化工程です」
「増幅率は抑制型」
わざと。
本命は別にある。
観客の中。
一人の男が静かに位置を変えた。
港湾労働者の服。
だが、動きに隙がない。
袖の内に、短刃。
視線は、壇上の一点。
その瞬間。
強風が吹く。
布幕が揺れる。
男が跳ぶ。
刃が閃く。
「――!」
クラリッサの悲鳴。
だが。
金属音が鳴る。
アルベルトが、即座に前に出ていた。
刃を弾く。
反撃は速い。
暗殺者の腕を打ち、地面に押さえ込む。
騎士団が一斉に動く。
群衆が混乱する。
だが。
血は流れていない。
レティシアは、一歩も下がらなかった。
視線は冷静。
「……やはり来ましたわね」
暗殺者は黙秘。
だが、その刃には帝国製の刻印。
クラウスの瞳がわずかに動く。
想定より早い。
帝国本陣。
「失敗か」
リヒャルトは淡々と報告を受ける。
「想定内だ」
「本命は地下倉庫」
静かな声。
「混乱の隙を突け」
王都。
暗殺未遂の報は即座に王城へ。
謁見の間。
「負傷は」
ルーカスの声は落ち着いている。
「なし」
アルベルトが答える。
「甘い警備ではなかった」
短い評価。
レティシアは冷静に言う。
「これは陽動です」
「地下倉庫が狙い」
全員が理解する。
触媒安定技術の本命。
アルベルトの目が鋭くなる。
「罠は張ってある」
「かかる」
地下倉庫。
夜。
影が動く。
帝国工作員たち。
静かに扉を破る。
内部へ侵入。
だが。
次の瞬間、魔導灯が一斉に点灯する。
「ようこそ」
アルベルトの声。
騎士団が包囲している。
偽の設計図が机に置かれている。
工作員が狼狽する。
「捕縛しろ」
短い命令。
剣が交わる。
短い衝突。
制圧。
王城。
ルーカスは報告を聞く。
「暗殺未遂」
「地下襲撃、鎮圧」
静かに目を閉じる。
「帝国は、線を越えました」
レティシアが頷く。
「これで外交カードが切れます」
アルベルトが低く言う。
「今度は、こちらが牙を見せる番だ」
灰色の商人クラウスは、夜の宿で窓を見つめていた。
罠に気づくのが遅れた。
「新王……侮れぬ」
帝国本陣。
リヒャルトは、わずかに目を細める。
「均衡王」
「思ったより鋭い」
指が地図を叩く。
「次は、外交だ」
王都の夜は静かだ。
だが。
均衡は、攻めに転じた。
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