第62話 暗い港
王都・港湾区。
夜。
潮の匂いと、重たい霧。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。
倉庫群の裏手。
黒衣の男が、静かに足を止めた。
「時間通りだ」
低い声。
影の中から、別の男が現れる。
「王国内の協力者は」
「揃っている」
短い会話。
帝国の紋章はない。
だが、動きに迷いはない。
――第三層、開始。
王城。
レティシアは、港湾監視報告に目を通していた。
「夜間搬入量が増えていますわね」
クラリッサが頷く。
「帝国商人の倉庫です」
「警備は」
「強化済みですが……」
レティシアは目を細める。
「強化されているのは“表”」
「裏が動いています」
同時刻。
旧強硬派貴族の屋敷。
「帝国からの支援は本物か?」
低い声。
「武器が届く」
「新王は甘い」
「強い王を戻す時だ」
その場にいるのは、数名の若い騎士。
揺れている。
理念ではない。
焦りだ。
王城・軍議室。
「港湾の夜間移動が不自然です」
アルベルトが地図を睨む。
「帝国商人の倉庫周辺に集中」
「踏み込むか」
問い。
ルーカスは静かに首を振る。
「まだ早い」
「証拠が足りない」
「だが匂いはする」
アルベルトの声は低い。
「承知しています」
「なら」
「罠を張ります」
レティシアが入室する。
「帝国商人に、新しい契約を提案します」
「触媒精製の“限定公開実演”」
沈黙。
「技術を見せるのか?」
「見せます」
レティシアは微笑む。
「偽物を」
空気が変わる。
「帝国は技術を欲している」
「ならば、盗ませる」
アルベルトが低く笑う。
「大胆だ」
「大胆でなければ、牙は出ません」
港。
灰色の商人クラウスは、密書を受け取る。
封は帝国宰相リヒャルト。
『技術を確保せよ』
短い命令。
クラウスは息を吐く。
「商人ではなくなってきたな」
夜風が強まる。
王城。
ルーカスは窓の外を見る。
「均衡は、守るだけでは崩れる」
小さく呟く。
「試されている」
レティシアが静かに答える。
「試させています」
遠く。
倉庫の影で、刃が光る。
まだ血は流れない。
だが。
帝国は次の一手を打つ準備を終えている。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




