第64話 灰色の書簡
地下倉庫襲撃の翌朝。
王城・尋問室。
捕縛された工作員の前に、アルベルトが立つ。
「帝国の命令か」
沈黙。
男は口を割らない。
だが、押収品の中に一通の書簡があった。
灰色の封蝋。
帝国公印はない。
だが、筆跡は整いすぎている。
宰相ヴォルフガングが静かに言う。
「帝国式暗号です」
解読班が動く。
数時間後。
紙の上に浮かび上がる文言。
『技術確保は最優先』
『混乱を拡大せよ』
『王国内強硬派との連携を保て』
署名はない。
だが。
余白に刻まれた紋章の痕跡。
リヒャルト・ヴァイスの私印。
王城・謁見の間。
「決定的です」
宰相が書簡を差し出す。
ルーカスは目を通す。
感情は表に出ない。
「帝国は否定するでしょう」
「証拠が曖昧だと」
レティシアが言う。
「ですが」
「十分に外交圧力になります」
アルベルトが低く問う。
「どう使う」
「公開しません」
ルーカスの答えは即座。
沈黙。
「裏で使う」
視線が集まる。
「帝国に送る」
「これは握っている、と」
レティシアが補足する。
「同時に、商業都市連合セレスティアへ写しを送ります」
「中立国を巻き込む」
宰相が頷く。
「外交包囲」
アルベルトの口元がわずかに上がる。
「ようやく牙を見せるか」
「牙ではありません」
ルーカスは静かに言う。
「均衡です」
帝国本陣。
リヒャルトの前に、王国からの書簡が置かれる。
封を切る。
中には写し。
灰色の書簡の複製。
短い文。
『王国は事実を把握している』
『公表は望まぬ』
『だが再発は許さぬ』
リヒャルトは微かに笑う。
「若いな」
「だが、賢い」
部下が問う。
「公表されれば、帝国は不利です」
「されない」
即答。
「均衡王は、破壊を望まない」
沈黙。
「だが」
目が冷たくなる。
「こちらも引かぬ」
王都。
商業都市連合セレスティアの代表、イザベラ・ノクスが書簡を読む。
「面白い王だ」
薄く笑う。
「帝国を表で責めず、裏で縛る」
「商機がある」
王城。
アルベルトが言う。
「これで帝国は即時侵攻できない」
「ええ」
ルーカスは頷く。
「だが」
「水面下の圧力は続く」
レティシアが静かに言う。
「ここからが本当の外交戦です」
ルーカスは立ち上がる。
「帝国に使節を送る」
沈黙。
「私自ら行く」
空気が凍る。
「危険だ」
アルベルトが即座に言う。
「承知しています」
「だが」
「均衡は、距離では作れない」
王城の窓から、帝国方面を見つめる。
「会いましょう」
「灰色の宰相に」
帝国と王国。
次の舞台は、戦場ではない。
交渉の場。
だが。
刃より鋭い戦いが、待っている。
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