第60話 弱き王の噂
王都・貴族街。
「新王は優しすぎる」
小さな晩餐会で、そんな声が上がった。
「帝国が軍を動かしているというのに、静観とは」
「強き王が必要だ」
言葉は穏やか。
だが、毒を含む。
屋敷の隅。
灰色の外套の男が、ワインを傾けながら耳を傾けている。
クラウス・ベルナー。
彼は口を挟まない。
ただ、頷くだけ。
「旧王太子殿下こそ、真の王の器」
誰かが言う。
その言葉が、静かに広がる。
翌日。
市井でも噂が流れる。
「帝国が国境に軍を集めているらしい」
「新王は何もしない」
「強くないと守れない」
事実の一部。
歪められた解釈。
それが最も危険。
王城・執務室。
「“弱き王”という言葉が流れ始めました」
宰相が報告する。
ルーカスは目を閉じる。
「想定内です」
「だが広がりは速い」
アルベルトが腕を組む。
「帝国の扇動だ」
「証拠は」
「ない」
だが、確信はある。
レティシアが静かに言う。
「第二層ですわ」
「内部を揺らす」
ルーカスは頷く。
「止める方法は」
「ありません」
即答。
「噂は、封じれば強まる」
沈黙。
「ではどうする」
「正面から受けます」
ルーカスが目を開く。
「公開会議を開く」
「貴族、商人、市民代表を招く」
「議論の場を作る」
アルベルトが低く笑う。
「弱い王が自ら晒されるのか」
「強い王は、逃げません」
静かな返答。
王都・中央広場。
数日後。
“公開評議”の布告が出される。
民衆がざわめく。
「本当に開くのか?」
「王が直接?」
貴族街では動揺。
「罠ではないのか」
「民に迎合するつもりか」
クラウスは、報告書を読む。
「公開評議……」
目を細める。
「面白い」
帝国本陣。
「新王は議論を選んだ」
報告を受け、リヒャルトは薄く笑う。
「均衡を守る王か」
「では、試してやろう」
机に置かれた封書。
旧強硬派貴族への指示書。
「評議の場で、問い詰めよ」
「軍を動かす覚悟があるのかと」
王城。
アルベルトは静かに言う。
「逃げるな」
「逃げません」
ルーカスは答える。
「だが」
「兄上も同席していただきたい」
アルベルトの眉がわずかに動く。
「私を盾にするか」
「違います」
「強さも、そこにあると示す」
沈黙。
やがて。
「いいだろう」
短い返答。
王都の空気が、張り詰める。
帝国の軍旗は翻る。
王国の噂も翻る。
そして。
公開評議の日が迫る。
均衡は。
言葉で守れるか。
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