第58話 触媒の消失
王都・触媒中央倉庫。
「在庫が……合いません」
管理官の声が震える。
「どういうことだ」
財務局員が帳簿をめくる。
「記録上は減っていない」
「ですが実物が不足しています」
ざわめきが広がる。
盗難ではない。
帳簿は正確。
だが。
「流通在庫が消えている」
王城へ急報。
謁見の間。
「触媒流通量が三割減少」
宰相が報告する。
「価格は上昇傾向」
ルーカスは眉を動かさない。
「原因は」
「大口買い付け」
レティシアが即答する。
「帝国系商人ですわ」
アルベルトが腕を組む。
「軍事示威と同時か」
「ええ」
レティシアは報告書を広げる。
「複数の商会が、同時に同量を購入」
「しかも海路経由」
宰相が低く言う。
「帝国へ流れている」
「いえ」
レティシアは首を振る。
「帝国へ“流していない”」
沈黙。
「どういう意味だ」
「倉庫に眠らせています」
全員が理解する。
供給を止めるための買い占め。
「価格を吊り上げ」
「王国市場を混乱させる」
ルーカスが静かに言う。
「経済侵食」
「第一段階ですわ」
アルベルトが問う。
「止めるか」
「力で?」
レティシアは視線を上げる。
「没収すれば、帝国の挑発に乗ります」
「なら放置か」
「いいえ」
微笑む。
「買わせます」
沈黙。
「もっとです」
宰相が目を細める。
「誘導するのか」
「ええ」
「帝国系商人に、さらに触媒を売る」
「表向きは歓迎」
アルベルトが理解する。
「依存を深める」
「そして」
レティシアの声が静かに落ちる。
「供給経路を、こちらで握る」
謁見の間の空気が変わる。
「備蓄を分散」
「港湾管理を強化」
「帝国商人に“特別枠”を与える」
「その裏で」
「代替触媒の流通を構築」
ルーカスが問う。
「どれくらいかかる」
「三週間」
「その間、価格は上がります」
アルベルトが低く言う。
「民が不安になる」
「短期の不安と、長期の安定」
レティシアは迷わない。
「どちらを選びますか」
沈黙。
ルーカスはゆっくり頷く。
「三週間耐える」
「同時に、価格安定基金を設ける」
「民への説明も行う」
決断。
帝国本陣。
「王国、強制措置は取らず」
報告が届く。
リヒャルト・ヴァイスは、静かに笑う。
「ほう」
「慌てぬか」
「では第二層へ」
指が机を叩く。
「王国内の強硬派に接触せよ」
冷たい声。
「内部から揺らせ」
王都。
市場では、価格上昇の噂が広がる。
「触媒が足りないらしい」
「帝国が絡んでいる」
不安は再び芽吹く。
だが今回は違う。
王城は、動いている。
ルーカスは、地図を見つめる。
「均衡は守る」
静かな声。
「だが、攻める」
隣に立つアルベルトが言う。
「甘く見るな」
「帝国は、まだ牙を隠している」
「承知しています」
新王の瞳は揺れない。
経済は戦場。
港は最前線。
見えない戦が、始まった。
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