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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 朝凪ことは


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第55話 兄と弟

 王城・南翼、私室。


 夜は深い。


 灯りは一つだけ。


 アルベルトは窓辺に立っていた。


 ノックが響く。


「入れ」


 扉が開く。


 ルーカス。


 無言のまま、扉を閉める。


 沈黙。


「宰相から聞いたか」


 アルベルトが背を向けたまま言う。


「はい」


「退位勧告だ」


「……」


「笑えばいい」


「笑いません」


 即答。


 アルベルトが振り返る。


「お前は勝った」


「違います」


「民はお前を選び始めている」


「兄上を否定して立つ気はありません」


「だが立つ」


「国家が壊れるなら」


 静かな対話。


 怒号はない。


「私は、守ろうとした」


 アルベルトの声は低い。


「戦乱を知らぬ民は、揺らぎを軽く見る」


「だから強く握った」


「だが」


 言葉が詰まる。


「握りすぎたのか」


 初めての問い。


 ルーカスは、すぐ答えない。


 少しだけ間を置く。


「兄上は、正しい」


「だが」


「平時に戦時の握り方は重い」


 静かな言葉。


 否定ではない。


「私は、兄上を尊敬しています」


 アルベルトの目が動く。


「常に決断が早かった」

「迷いがなかった」


「だが」


「今は、揺れを整える時です」


 窓の外、王都の灯り。


 沈黙。


「王とは何だ」


 アルベルトが問う。


「強くある者か」

「均衡を保つ者か」


「両方です」


 ルーカスは答える。


「ですが順番があります」


「今は、整える時」


 長い沈黙。


 アルベルトは椅子に腰を下ろす。


「父上は言ったな」


 ――民が必要とする方が立て。


「私は、必要とされていないか」


「違います」


「兄上は必要です」


 即答。


「ですが、王位という形ではないだけ」


 重い言葉。


「支える側に回れば」


「私は、お前の影になるのか」


「違います」


「兄上は、私の軸になります」


 アルベルトは、わずかに笑う。


「調整者の王に、強き軸か」


「ええ」


 沈黙。


 やがて。


 アルベルトは立ち上がる。


「三日後」


「退位を受け入れる」


 ルーカスの瞳が揺れる。


「兄上……」


「だが条件がある」


「何なりと」


「王権を弱くするな」


 強い視線。


「揺れを整えろ」


「国家を壊すな」


「はい」


 迷いなく。


 アルベルトは息を吐く。


「お前は、私より王に向いているかもしれぬ」


「違います」


「時代が、私を選ばなかっただけ」


 静かな自己理解。


 兄は敗者ではない。


 役目を終えるだけ。


「明日、父上に報告する」


 アルベルトは背を向ける。


「そして公に発表する」


 扉の前で、ルーカスは止まる。


「兄上」


「何だ」


「ありがとうございます」


 短い沈黙。


「甘いな、お前は」


 だが、その声は穏やかだった。


 扉が閉まる。


 王城の夜は静かだ。


 王位は、奪われるのではない。


 渡される。


 振り子は、中央へ戻った。

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