第43話 奇跡の限界
王都大聖堂。
再度の大規模儀式が、強行された。
反対の声はあった。
大司教も慎重だった。
だが。
「王国の象徴を揺らがせるわけにはいかない」
アルベルト王太子は、決断した。
触媒は、かき集められた。
純度は不十分。
増幅装置は、限界近くまで調整される。
地下区画。
バルトロメオが、歯を食いしばる。
「出力が不安定です」
「これ以上は危険です」
「調整しろ」
王太子の声は冷たい。
広場。
民衆は、前回より多い。
分裂した思想の答えを、見ようとしている。
壇上。
セラフィナは、静かに立っていた。
恐怖はない。
ただ。
理解している。
これは限界だと。
「始めよ」
号令。
祈り。
「光よ――」
増幅。
強烈な光が広場を包む。
歓声が起きる。
だが。
地下装置が、異音を立てる。
触媒槽が振動する。
結晶柱が、ひび割れる。
「制御不能です!」
バルトロメオが叫ぶ。
光が、暴れる。
収束せず、拡散する。
熱が走る。
空気が焼ける。
民衆が悲鳴を上げる。
光が、刃のように広場を裂こうとした瞬間――
別の魔導陣が、展開された。
柔らかな光。
安定陣。
暴走を吸収する構造。
レティシアの設計。
増幅を“削る”陣。
暴れる光が、分散される。
熱が消える。
ひび割れた結晶柱が、砕け落ちる。
静寂。
広場に、沈黙が落ちる。
奇跡は、止まった。
完全に。
セラフィナは、膝をつく。
だが、倒れない。
自分の力だけで、小さな光を灯す。
弱い。
だが。
安定している。
アルベルトの顔が、蒼白になる。
「……なぜだ」
バルトロメオが、震える声で言う。
「触媒不足のまま増幅を上げれば、こうなります」
構造は、限界だった。
神秘は、物理に負けた。
民衆が、見ている。
奇跡が。
壊れかけた。
レティシアは、静かに前に出る。
「奇跡は、無限ではありません」
声は落ち着いている。
「供給も、構造も、限界があります」
誰も、反論しない。
目の前で見た。
暴走しかけた光を。
セラフィナが、ゆっくり立ち上がる。
涙はない。
恐怖もない。
「私は……」
声が、広場に響く。
「神ではありません」
ざわめき。
「私は、祈りを捧げる者です」
小さな光が、彼女の掌に灯る。
増幅なし。
装置なし。
優しい光。
「奇跡は、支えられています」
その言葉が、静かに広場を包む。
アルベルトは、何も言えない。
象徴は。
完璧ではなかった。
奇跡は、限界を見せた。
そして。
聖女は、自ら語った。
振り子は、最大角度に達した。
次は。
再定義の時だ。




