第42話 信仰か、契約か
王都の空気が、変わり始めていた。
広場の片隅。
「奇跡は神の御業だ」
「仕組みなどと言うのは不敬だ」
年配の商人が声を荒げる。
その向かいで、若い職人が言い返す。
「でも、装置がなければ不安定なんだろ?」
「だったら安定させた方がいい」
「神を疑うのか!」
「疑ってない、支えたいだけだ!」
議論は、あちこちで起きていた。
大聖堂前。
信徒の一団が祈りを捧げる。
「聖女様を守れ」
「奇跡を疑うな」
一方で。
商業区では別の声。
「供給が安定すれば、医療は止まらない」
「契約の方が信用できる」
信仰か。
契約か。
王都は、二つに割れ始めていた。
大聖堂、会議室。
大司教アルフォンスは、深い溜息をつく。
「民衆が分裂している」
エリスが、不安そうに言う。
「奇跡を守るべきだという声と、仕組みを公開すべきだという声」
「どちらも、間違ってはいない」
アルフォンスは、低く答える。
信仰は尊い。
だが、依存は危うい。
王城。
アルベルト王太子は、机を叩く。
「分裂は許さない」
「ですが殿下、議論を止めれば反発が」
「王国は一つでなければならない」
彼の思想は、明確だ。
統一。
象徴。
強さ。
だが。
統一は、押し付ければ軋む。
ヴァルデン。
「王都、思想対立が可視化」
グラントが報告する。
「暴動の兆候は?」
「現時点ではありません」
クラリッサが、小さく言う。
「どうしますか?」
「何もしません」
私は即答する。
「思想は、押し付けるものではありません」
民衆は、自分で考え始めている。
それが、何より大きい。
その夜。
セラフィナは、聖堂の裏庭に立っていた。
冷たい風。
「私は……」
信仰を守る存在。
それとも。
救う存在。
エリスが隣に立つ。
「聖女様は、何を望みますか」
セラフィナは、空を見上げる。
「誰も、傷つかないこと」
奇跡が暴走しないこと。
民衆が争わないこと。
「奇跡が独占されなければ……」
言葉が、静かに落ちる。
彼女の中で、答えが芽生え始めていた。
王都中央広場。
ある男が声を上げる。
「奇跡を独占するな!」
別の男が叫ぶ。
「不敬者!」
押し合い。
小さな衝突。
火種は、小さい。
だが。
思想の火は、広がる。
ヴァルデン。
私は、遠く王都を思う。
「信仰も、契約も」
静かに呟く。
「強制すれば壊れます」
振り子は、最大角度へ向かっている。
次に来るのは。
崩壊か。
再定義か。
選ぶのは。
王太子でも。
私でもない。
民衆だ。
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