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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 朝凪ことは


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第22話 最大商会の来訪

 それは、交渉成立から十日後のことだった。


 ヴァルデンに、豪奢な馬車が現れる。


 王家の紋章ではない。

 だが、見慣れた者なら一目で分かる。


 ――ヴェルナー商会。


 王国最大の商会。

 流通、金融、触媒、医療資材。

 王都の経済を実質的に握る存在。


「……ついに来ましたか」


 クラリッサが、低く呟く。


 広場に止まった馬車から降りてきた男は、三十代半ば。

 長身。

 整った顔立ち。

 そして、隠そうともしない自信。


「レオンハルト・ヴェルナーだ」


 名乗りは簡潔。

 だが、声には余裕があった。


「レティシア・フォン・ヴァルクレイン様に、直接用件がある」


 私は、広場に出る。


「お待ちしておりました」


 その言葉に、彼の片眉がわずかに上がった。


「……ほう?」


「王国が交渉を選んだ以上」

「次に来るのは、あなたですわ」


 レオンハルトは、薄く笑う。


「話が早くて助かる」


 集会所へ移動する。


 机を挟み、向かい合う。


 彼は、遠慮なく部屋を見回した。


「想像より整っている」

「辺境にしては、な」


「お褒めに預かり光栄です」


「褒めていない」


 即答。


 だが、視線は興味を隠していない。


「本題に入ろう」


 彼は、書類を一枚差し出した。


「ヴァルデン商圏の運営権を、ヴェルナー商会に譲渡しろ」


 静寂。


 クラリッサが、息を呑む。


「対価は十分に払う」

「あなたは、象徴として残ってもいい」


「実務は、こちらが引き受ける」


 つまり。


 吸収。


 支配。


 私は、書類に目を通す。


 条件は破格。

 資金保証。

 王都での地位。

 表向きは“共同運営”。


 だが、条文の奥にあるのは明確だ。


 ――主導権の移譲。


「断りますわ」


 即答だった。


 レオンハルトの目が、細くなる。


「理由は?」


「ここは、契約で成り立っています」


 私は、静かに言う。


「支配構造に変えれば、崩れます」


「理想論だな」


 彼は、鼻で笑う。


「市場は支配するものだ」

「力のある者が握る」


「あなたは、まだ“守られている”だけだ」


 王国との合意を指している。


「守られているのは、あなたの方ですわ」


 私は、穏やかに返す。


「王国という後ろ盾がある」


 一瞬、空気が張り詰める。


「言うな」


「事実です」


 私は、目を逸らさない。


「ですが、それは否定しません」

「王国も、商会も、必要な存在です」


「ただし」


 一拍置く。


「従属はしません」


 レオンハルトは、数秒間、私を見つめた。


「……面白い」


 彼は、椅子にもたれた。


「では、別の方法を取ろう」


 その言葉に、クラリッサの指が僅かに震える。


「価格を下げる」

「徹底的にな」


 宣戦布告だった。


「ヴァルデンの供給品を、王都で暴落させる」

「あなたの契約者は、耐えられるか?」


 私は、微笑んだ。


「在庫はあります」


「在庫は、いずれ尽きる」


「信用は、尽きません」


 沈黙。


 レオンハルトの目が、わずかに冷たくなる。


「では、見せてもらおう」


 彼は立ち上がる。


「市場で勝てるかどうか」


 去り際に、振り返る。


「理想は、高くつく」


「ええ」


 私は、静かに答える。


「ですが」


 視線を合わせる。


「信用は、もっと高く売れます」


 馬車が去る。


 広場に残るのは、緊張。


「……本当に、大丈夫なのですか」


 クラリッサが、低く問う。


「始まりましたわ」


 私は、帳簿を開く。


「価格戦争です」


 市場が揺れる。

 供給が揺れる。

 信用が試される。


 だが――。


(望むところです)


 これは剣の戦いではない。


 数字の戦い。


 第3章、開幕。


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