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08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~  作者: 由耀
第5部 08 ―HACHI―
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EP106 俺の彼女と私の彼(2)

 この船は“ルクセンティール”号とよばれていた。

 ユイが居るのはこの船の食堂。


 ギーヴと呼ばれる日焼けした、筋肉隆々の中年男性と食事をとっている。

 頭の上にツーを載せたまま。

 ギーヴはこのルクセンティール号の船長なんだという。

 本来この船は漁獲目的で使用していながら、この海域に流れ着く人やモノを回収する役目を担う。

 

 所属リージョンは無いらしいが、アハド家と懇意にしているとのこと。

 アハド家とは、アゼリアの名家の一つ。

 医療のカイドウ、思想のマガミ、力のグライゼル、そして、司法のアハドだ。


「アハドの爺様には世話になってるからな、頭上がんねえんだ」


 食事の時、ギーヴはそう笑って答えた。

 この船には25名ほどのクルーが居る。

 しかし食堂にはユイとツーとギーヴしかいない。

 Mathewは現在別室で応急処置を行っているという。


 それにしてもこのフランクさ。

 ユイが本名を告げたとしても恐らく同じ対応だろう。


「そこで嬢ちゃんに提案があるんだけどよ、聞いてくれるかい?」

「はい」


 少し申し訳なさそうに、ギーヴは告げる。


「一応俺ら漁を生業にしてんのよ。けど肝心の漁がまだ終わってねーの」

「あら……」


「嬢ちゃんたちを連れまわすわけにもいかねーし。技術者がいる島に送り届けっから、そこで何とかしてもらってもいいか?」


 その提案はユイにとって願ってもないことだ。

 Mathewを海水に漬けてしまった。恐らく修理も難しいかもしれない。

 祖父トミオが生きていたらまだ希望はあったかもしれないが。


 ギーヴによると、アゼリアの海は”アーリア海”、“ゼルス海”、“リーシャ海”の3つの大海がある。

 その3つの海流が複雑に入り混じる海域があるという。そんな場所に、小さな島がある。

 それはどのリージョンにも属さず、世界の“司法”を司る”アハド家”が極秘に管理する島だ。

 

「誰が付けたかわかんねぇが、そこは“神の島”って呼ばれてんだ」 

 

 ――“神の島”(クレスコア)


 ツーがユイを見つめた。


「ゆいゆい、よく聞いてね。その島に滞在できるのって、今日を含めて三日間だけなんだよう」

「どうして?」

「“ゼルス海”が、引き潮の時だけ現れる島だからだよう。いつもは海に沈んでるんだよう」

「……そんな海に沈む島に、どうして技術者が住んでいるの?」


 ギーヴが詳しく説明してくれた。

 このクレスコアは、島全体が古代遺跡であること。

 カザム教でいうところの聖地……“世界の守護者”が住む“世界の端”に該当すると。


「その技術者はトムって言うんだが、その守護者に雇われてんだとよ」


 技術者トムは、古代遺跡の管理を任されているのだろうか。

 ギーヴが説明を始めだすと、ツーはユイの頭の上で寝たふりをする。

 何かを誤魔化しているようにも見えた。

 

「トムは修理魔なんだよう。なんでも直せるから乞うご期待だよう……ぐぅ」


 クレスコアの“世界の守護者”が、流れ着いた“外部の人間”の滞在時間を72時間と定めた。

 この時間内であれば島に上陸しても良いという。


「ま~、そういうわけでよ。3日後には迎えに行くんで安心してくれ」

 

 ゼルス海に沈む、“神の島”(クレスコア)

 謎に包まれたこの島に住む技術者・トム。

 

(私は結局、世界の守護者に引き寄せられてる……) 


 まるで最初からそうなる運命だったように。

 それでもMathewを修理したい。

 そのためなら“神の島”(クレスコア)が危険でも行くしかない。


  

「わかりました」


 ユイがそう決意した一方で、ツーとギーブはクッキーの取り合いをしている。

 女性クルーが差し入れた大きなナッツ入りのクッキーを、ギーヴがつまみ食いしたからだ。

 

「これはゆいゆいのだよう。ギーヴは煙草でも吸ってろだよう」

「ぁんだ? 甘いモンの一枚くらいイイだろうが。……うめえなコレ」 


 ツーとギーヴのやり取りが面白い。

 信頼関係で成り立っているのがわかる。

 少なくとも私とMathewのようなガチガチ感はない。 

 ユイはふたりに”AI存在距離規定”(FOS)の理想形を見たような気がした。

 くすくすとユイが笑うと、ギーヴも豪快に笑う。

 

「そんじゃツー、トムに連絡してくれ。好物の和酒も持っていくってな」

「らじゃり、だよう~」

 

 頭の上のツーが元気よく答える。

 うん、かわいい。


「修理技師さんて、トムさんて言うんですか? 和酒が好きなんて珍しいですね」


 今時、清酒を和酒と呼ぶのも珍しい。

 そもそもリージョンN出身の若者は和酒とは言わない。

 祖父トミオの時代なら言ったかもしれないが……。

 考えに耽るユイを見て、ギーヴは、


「ま~。……あんま、チマチマしたことはどうでもよくね?」


 頭を搔きながら彼はそう告げる。

 この大雑把さ。少なくともユイやMathewにはない。

 どちらかと言うとトオル寄りの、気遣いに溢れた対応の一環だ。


「トムは水ばっか欲しがるからよ、良かったら嬢ちゃん、料理でもしてやってくれよ」

「ふふ。分かりました、頑張ってみます」


 今後の流れが決まった為、船は島へと進み始めた。

 ユイはツーを頭に乗せたまま甲板にでる。

 赤く染まり始めた空、うっすらと見え始めた月。


 先客がいた。

 揺れる甲板に立つのは、応急処置を終えたMathew。

 銀色の髪が風になびく。それは揺らぐ旗のようにも見えた。

 その背中が大きく見える。


「Mathew」


 ユイが名前を呼ぶと、Mathewは無表情のまま振り返った。

 白いYシャツに、護衛のスラックスズボン。

 黒いネクタイはしていなかった。

 ユイを見てMathewの視線が少し柔らかくなる。


「ゆいゆい、彼はなんていう名前だよう?」


 甘いムードを敢えて切り離すように、ツーはユイに声を掛けた。

 

「Mathewだよう」

「またツーの真似してるよう。ゆいゆい染まりやすいよう……」


 ユイとMathewとツー。

 その面白い構図を、ギーヴはニヤニヤしてみていた。


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