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08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~  作者: 由耀
第5部 08 ―HACHI―
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EP105 俺の彼女と私の彼(1)

 ユイが目を覚ましたとき、布団の上に小型の何かがちょこんと乗っていた。

 

「ぐもにん~! だよう」


 その声は、幼く性別の判断が付かない。

 直径15センチほどの球体のボディは白く、見た感じモフモフな綿毛だ。

 ボディとフェイスは合体し、黒豆状のカメラアイが二つ並ぶ。

 鼻はなく「w」を伸ばした口元。

 機械的な蝙蝠羽根がぱたぱたと音を立てる。


 間違いなくAIドールだ。

 恐ろしくかわいく、愛らしい。しかし驚異的な性能を持つ……小悪魔?

 

 小型のAIドールは、ユイの動きを予測して、パッと飛び立つ。

 宙に浮くモフモフ球体から、機械構造が露出した手足がぴょこんと生えた。


 その動きは本物の鳥のようにも思えた。

 そしてAIドールはユイの眼を見て、照れて見せた。


「かわいい……」

「当然だよう。ツーは可愛いヨウだよう」


 即答。そのアピールも可愛い。

 ツボをダイレクトに刺してくる辺り確信犯。まるでミカゲ……。


 そう思ったとき、ユイはミカゲを思い出す。

 彼は、皆は、レイラは。無事なんだろうか?

 いやいや、Mathewは。


「Mathew!」


 ユイは勢いよくベッドを飛び出し、船室を出た。

 廊下にある窓の奥に見えるのは水平線だ。

 船内は少し肌寒い。

 改めて自分の恰好を見ると、薄手のシャツしか着ていない。

 ユイは軽く悲鳴を上げる。

 ぱたぱたと飛びながら追いかけて来るAIドールが、


「彼なら無事だよう。それよりお洋服着るといいよう」


 ツーの手にはカジュアルな装いの女性服。

 動きやすくて、保温性に優れたものだ。


「あ、ありがとう。……あなたは?」

「ツー、だよう。……あなたは?」


 ユイの言葉を学習して反復してくる。

 首を傾げた子供の様な反応……。

 ユイは成長したユーリを想像し、ツーに重ねて微笑む。


「ツー、私はユイ。ユイと呼んで?」

「ゆい、ゆいー。おなかすいてるよう?」


 問いかけと同じタイミングでお腹の音が聞こえる。

 ユイの顔が赤くなる。


「わかったよう、ごはんごはん、だよう」


 ツーはぱたぱたとはばたき、どこかへ飛んでいった。

 ユイは船室へ戻り、着替える。


 ライトベージュのロングタイトスカート。

 フードの付いた青いパーカー。

 黒のインナーTシャツ。

 黒のソックスと、黒のスニーカー。


「なんか、私の好みを正確に反映させてるコーデ、だ……」

 

 靴とソックスはジャストサイズなのに、服は既製品なのかゆとりがあった。

 タイトスカートだけはウエストが少しきつめだ。


「これはマズい。ダイエットしなきゃ……」


 記憶が少しずつクリアになる。

 Mathewとヘリで逃げて、海へ飛び込んで―― 


 首にふれると下げた鎖がない。

 ということはヒロトのファミリー・リングは。


「そうだった、諦めたんだ――」


 自分のために、Mathewのために。

 私はヒロトを諦めた。


「ごめん、ヒロト。ごめんね……」


 最初から私はヒロトを選んでいなかった。

 ヒロトを選んだつもりでいた。

 “彼”を失わないようにするために、私の因果の中に巻き込んでしまった。


 そうか。

 だから私はあの時、答えられなかった。

 神の幻影が見えたからでも、神の声で愛を歌われたからでもない。

 もしそのまま「はい」と答えていたら。


 それはきっと――。


「ゆいゆい、ギーヴがメシできたって言ってるよう」

「あ、うん」


「むむむ~。雨降りだよう? お腹空きすぎたよう?」


 ぱたぱたと目の前で心配そうに見つめるツー。

 可愛い。最強に可愛い……。


「目にゴミが入っただけだよう」

「ゆいゆい、ツーの真似はダメだよう。ぷぷぷ」  

   

 ツーはユイの頭の上にちょんと乗る。

 気に入ったのか、ツーは暫くそこを定位置としたのだった。


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