君にとびきりの花束を
それから私は、闇に沈んでいく元の世界を見守った。
心が折れそうになったら、箱庭のコピーの条件を調整していった。
あの子のコピーが死ぬ前の時間。
私のコピーと出会い、恋をして、告白を翌日に控えていた頃に、一人の人間を投入してみた。
完璧超人・ヨウのコピー体の一つ――――別の箱庭で、愛する妻子を庇って死んだ存在の、魂をコピーした存在。
強く、頭が回り、危機に対応でき、そして、あの子を守れる存在。
あの子がリフジンのコピーとかち合うする前に接触させ、彼女の行動範囲に入り込ませる。リフジンとの衝突が発生した際には介入し、あの子を逃がす。それだけのつもりだった。
そうして、実際、ヨウのコピー体は、あの子が告白した帰り道に出現したリフジンに立ち向かい、役目を果たし、そうして代わりに死んだ。
それを見て私は、深く息を吐いた。
「……よかった」
誰に聞かせるでもなく、呟いた。
けれど。
「ん……?」
あの子の恋心は完全に、命を賭してあの子を庇ったヨウのコピー体に持っていかれてしまった。
「いやいやいやいや、待って下さい!?」
その後の展開は、驚くほど順調だった。
あの子は私のコピー体に告白したし、私のコピー体はそれを受け入れた。
あの子の妹は姉の恋を応援し、二人の関係を見守った。
それを流石にあの子は壊すつもりはなかったらしい。
けれど、心はいつもヨウのコピー体に向いていた。
「…………ッ」
あの子は助かった。
あの子と私のコピー体は結婚した。それで満足すべきだ。そう思い込もうとしながら、箱庭を見守り続けた。
大きな事件もなく、致命的な悲劇もなく、二人はそれなりに喧嘩をし、それなりに仲直りをし、穏やかな日々を重ねていった。
幸福な人生だった。
産んだ子に、あの子は、ヨウのコピー体の名前をつけた。
「…………」
舌打ちが、自然と出てしまった。
噛みしめていた唇が切れた。
……私のこの感情はとても醜い。
私のコピー転生体からは、せめてもの親心として、その醜い感情を定期的に消してやった。
「……ハッピーエンド、ですかね」
少なくとも、外から見れば。
「まあ、救いのある道ではあるな。
俺としてはこちらの復讐鬼の箱庭の方が好ましいが。
人間の負の感情と限界状況で見える美しさが光る。
さっさとこちらの時間の流れも速めて見守れ」
「……はいはい、そちらも進めますよ」
告白の帰り道に死んだ、あの子のコピー体オリジン。
私のコピー体への気持ちを抱え、明日を迎えるはずだった少女。
自分の正義を曲げず、危険な相手にも立ち向かい、その結果として取り返しのつかないところまで追い詰められた少女。
死の間際まで彼女は、屈しなかった。
最後まで彼女の中には、彼女自身の誇りが残っていた。
そうして、彼女の妹と、恋人への想いも。
身体を傷つけられようと、望まないことを強いられようと、彼女は彼女であることをやめなかった。
私が与えた性質から考えれば、そこまで耐えることも、そこまで抗うことも、必然ではなかったはずだ。
それでも、彼女はそうした。
私が望んだ恋愛の物語など、とうに置き去りにして。
私が用意した役割など、知ったことではないとでもいうように。
彼女は、自分の人生を生きていた。
あの恐怖も、痛みも、怒りも。
誇りを守るために踏ん張った時間も。
すべてを失う寸前まで、それでも失わなかったものも。
「……分かっていますよ。こちらの彼女たちの物語も、枯れるその日まで、きっちりと水をやり、手間をかけます」
その輝きは、幸せな道のあの子には、どうしても持てないものだった。




