玩具
リフジンはつまらなくなれば大抵他人にちょっかいを出しに行く。
大抵の被害者は反応の良いユーカとマドエで、その二人が構ってくれないとなれば私の方にやってくるので、私は二人が食い止める時間が長いことを願っていた。
「リフジさん。今すぐ、今すぐその手を止めていただけますか?」
ーほら、今日もまたはじまった。
「止めてください。聞こえませんでしたか?その箱庭はまだ序盤も序盤で、あなたの変革なんてまだ必要ないんです」
「えー、もうちょっとくらいいいだろ?ちょっと不穏にするだけだって、あはっ」
「何がおかしいんですか!!!!」
つかつかと、歩み寄ってくる音がする。
「おい、やめとけ」
マドエだった。
リフジが振り向く。
「なんだよ、マドエ」
「つまんないだろ、いじめても」
「……は?」
ユーカの笑顔が凍りついた。
マドエはそんなことには構わず、呆れたようにリフジを見ている。
「毎回疑問に思うが、そんな弱くて薄暗くて陰気で内気な奴、いじめて楽しいか?」
「マドエさん!?」
ユーカの声が裏返った。
「……ッ、今、助けに来てくださったんじゃないんですか?
助けに来てくださったんですよね?
なぜ私の人格にまで追い打ちをかけるんですか?」
ユーカの声が涙声になっていく。
「いや、そういう奴が荒れるのが面白いんじゃん!」
リフジは悪びれもせず笑う。
「意外と頑丈で遊ぶとキレたり折れたりして面白いし!あっ、マドエの分身隊もそうだけど」
「……」
マドエは数秒、無言だった。
「本当にお前、最悪だな」
「えー?褒めてる?」
「そうだな、褒美として首輪と鎖を与えてやろうかと検討中だ」
「え=?照れるなー」
「マドエさん、あの」
ユーカはおずおずと言う。
「私、今、リフジンさんの分身体を全て壊してまわってもよろしいでしょうか?」
「構わんが、それに代わる活動エネルギーやヘイトタンクを入れられないなら結局その箱庭は枯れるぞ?ん?」
「ですよね……」
「リフジンの分身体にどう壊されようとお前の分身体はこれまでずっとリフジンの分身体より長生きしてきた。だから今回も大丈夫だ」
「そういう問題ではなくてですね……」
ユーカはとうとう唸りながら黙ってしまった。
横目で見ながら、何なのだろう、この人たちは、と何度目かの疑問を抱く。
「まあ、いい。やってみてもいいんじゃないか。この箱庭で序盤でお前の分身体がリフジンの分身体を殺したらどうなるのか」
「……ふぇ?」
「ああ、俺が言うまでもなく、勝手に動いたな。
よし、観察のし甲斐がある対象になったな。元被害者が犯罪者として後ろ指刺されながら一生を生きる……
面白そうじゃないか」
「……ああああああ!!?」
ユーカは手を握り締めた。
「これまでのお前の分身体は自分の手を汚す覚悟を完全に追い込まれるまで出せないようだったが、良かったな、この分身体は少し気が早いようだ!俺としても面白いと思うぞ」
「今ッ、何かしましたかっ!?」
「……いや、別に?管理者であるお前の感情が反映でもされたんじゃないのか?」
「ぐっ……!」
どうやら、物事は私にとり都合が良い方向に向かったようだ。
良いですよ、もう少しその怪獣を引き付けていてください――――という心の声を、私は呑み込んだ。




