世界管理者VS世界管理者
「はああああああああああああ!?!?!?」
ユーカの絶叫が、管理室に響き渡った。
「なんで!?なんでこうなるんですか!?ねえ、リフジンさん!!あなた何してくれてんですか!?ねえ!!」
「え?壊した!だってお前の箱庭つまんねーし、枯れかけてたじゃん」
「ふざけないで下さいっぽく!!!!!」
ユーカが吠える。声が裏返る。机を叩く。資料が跳ねる。お気に入りのマグカップが倒れ、底に残っていた紅茶が書類に広がった。
「……ああ、もう。最悪。最悪最悪最悪です!あなた本当に、何も考えてないんですね!?」
「考えたぜ?俺なりの思いやりだって。枯らさないためのさ」
「きいぃぃいいぃ!!」
リフジは悪びれもせずからからと笑いながら掴みかかるユーカを嘲笑い、椅子の背もたれに両腕を引っかけた。
二人の前に浮かんでいる箱庭は、見るも無惨だった。
ユーカが大事に育てた箱庭の国に放り込まれた「エネミー」リフジンの分身により、何人もが死亡。
事態は確かに動いていたし、人間ドラマも生まれたが、死んだ人間は蘇らない。
ユーカが、少しずつ手を入れてきた箱庭だった。
気に入った住人を見つけては、彼らの関係を眺めて。喧嘩をさせたり、仲直りさせたり、たまにはちょっとした試練じみた不幸を放り込んでみたり。
そうして、ずっと見ていた。
なのに。
「……返して下さい」
ユーカの声が、低くなった。
「私の箱庭、返して下さい!!!」
ユーカの手は止まらない。だが、リフジンは殆どダメージを受けていない。当然と言えば当然だ、この箱庭外の世界では私達は物理的な怪我をほぼ負わないようになっている。
「私がどれだけ――」
時間をかけた。気に入っていた。もっと見ていたかった。これからどうなるのか、楽しみにしていた。
この男に説明したところで、分かるはずもない。
「……最低」
「おう」
「最低最悪のクソ野郎」
ユーカは手近な椅子を投げつけたが、リフジは笑って受け止めた。
その笑顔が、また腹立たしかった。
リフジはいつもそうだ。気に入らないから壊す。面白そうだから壊す。壊したらどうなるか見てみたいから壊す。
そのくせ、壊れた後のことには興味がない。
ここに来て間もない私でさえそうなのだから付き合いが長ければそれ以上だろう。
これだけ仲が悪そうなのに、ユーカをここにスカウトしたのはリフジンなのだと言う。
……玩具として、というところか?
悪趣味だ。
ユーカが切れれば切れるほど面白がるリフジンの様子にユーカは歯を食いしばり、箱庭を睨んだ。
「もういい!もうたくさん!時間を巻き戻して――――――……あれ?」
画面の隅で、人影が動いた。
崩れた建物の下から、男が這い出してきた。
血に汚れた腕で瓦礫を押しのけ、何度も滑りながら、どうにか立ち上がる。片足を引きずって、周囲を見回した。
やがて彼は、必死でその場を後にした。
敵に見付かる前に、ユーカが愛した箱庭の住人の遺言を届ける為に。
「……」
男は、死者の手紙を、良い中の女に届け、そのまま気絶した。
女は泣きながら、手紙を握り締めた。
「……殺してやる、リフジ……!」
「……」
ユーカは眉間に皺を寄せた。
「……強い……?」
ぽつりと呟いた。
「は?」
リフジンが箱庭を覗き込む。
「おっ、たくましーじゃんこの女。叩き潰しがいがありそうだわ」
ユーカは彼を睨んだ。
「……今度こそ余計な事しないで下さいよ」
「えー、つまんねぇ」
「……」
ユーカは拳を握った。
箱庭の住人たちは、彼女が知っていた通りには動かなかった。
泣いて、怒って、誰かを責めて、何もできずに座り込む者もいる。助けを求める者も、逃げ出す者もいる。
そして、立ち上がる者もいる。
「お前より強かったら面白いのにな」
リフジンはけらけら笑った。
ユーカは彼を無視して、箱庭の拡大鏡を覗いた。
リフジンは肩をすくめ、今度こそ黙った。
ユーカは頬杖をつき、眉間に皺を寄せたまま、箱庭を見守った。
「頑張れ、頑張れ、頑張れ」
祈るように。
どうかこの箱庭が、神に愛されながらも、この少女が幸せを掴み取れることを、彼女は願っていた。




