綺麗だね
「また派手にやったな、リン」
赤黒い夕日が差し込む、血の海と化した凄惨な部屋に、サングラスを身に着けた黒いスーツ姿の男が、作業着の男たちを引き連れて入ってきた。
「シミ一つ残すなよ」
作業着の男たちは手に持つ道具を使って赤黒く汚れた部屋の掃除を始めた。金田昇だったものは、ぶちまけられた内臓と一緒に袋に詰められている。
スーツの男、鴉羽九郎は、余ってたプリンを食べているリンの正面に座る。彼が身につけているものはすべて真っ黒で、まるでカラスのようであった。
「つーか、顔ぐらい洗ったらどうだ。顔面血まみれで、制服も。気持ち悪くねえのか?」
「……別に、平気。見せしめだから派手にやれって言ったのはクロウ」
「クライアントの指示がそうだったんだよ。こいつの親父がお得意さんの縄張りに手ぇ出しやがってな。そこのボスが怒り狂って一族皆殺しにしろとさ。このガキも運が悪かったな」
「……そう」
プリンを食べ終わったリンは、返り血で赤黒く染まった白髪を興味なさそうにいじっている。
「リン、報酬はいつも通り振り込んでおいたからな。他に何か必要なものはあるか?」
彼女は、食べ終わったプリンの空き容器を指差す。
「……これ。今日新発売の、おいしかったから」
「さっきあのガキが買ってたやつか。お前、本当にプリン好きだな。つーか、毎日こんなのばかり食ってて飽きないのか?」
「飽きない」
「そうかよ。――おい」
鴉羽は掃除していた作業服の一人に声をかけて買いに行かせた。
そして彼はタバコを取り出して火をつけようとする。だが、リンが素早くライターを取り上げた。
「……煙草はダメ。くさい」
「どの口がくさいとか言ってんだ。俺にはこのホルマリンの臭いがきつすぎるんだよ。つーか、煙草の香りで中和しねえと息が詰まっちまう」
「……外で吸って」
「わかったよ」
立ち上がって彼女からライターを取り戻すと、鴉羽は血まみれの窓からベランダへ出ていく。
⊃・⊃・⊃
リンが銃の手入れを終える頃、コンビニに行っていた男が帰ってきた。彼から袋を受け取ると、リンはいそいそと奥の部屋へ向かう。
「リン、次の仕事もあるから趣味は早めにすませろ。それが終わったらこの町を出るからな。コレクションの荷造りもしておけ」
「……わかった」
彼女が奥の部屋に消えると、鴉羽はスマホでどこかに電話をかける。
「こっちは終わった。あとは千代田の方の母親と一緒に向こうに送っちまえば良い」
『ご苦労さまです。リンさんはお変わりないですか?』
電話口からは若い男の声が返ってきた。
「あいつはいつも通り臭えよ。今頃、プリンでも食ってるだろう」
『女性に対してそのような言動は慎むよう常々言っているはずですが』
若い男は言葉のトゲを隠そうともしない。鴉羽は小さく舌打ちをして言葉を続ける。
「うるせえんだよネギ頭。つーか、今回の件でリンを学校に行かせる必要あったか? 俺に父親役なんてやらせやがって」
『ボスからの指示です。なんでも、社会見学だとか』
「……社会見学だと?」
紫煙を吐き出す彼の眼下では、掃除を終えた作業員たちが荷物を黒い車に積み込んで走り去っていった。
⊃・⊃・⊃
奥の部屋に入ったリンが照明を付けると、彼女のコレクションが蛍光灯の下に晒される。
強烈なホルマリンの臭いが充満するこじんまりとした部屋は、太陽光が入ってこないように窓が全て目張りされている。
瓶詰めの臓器は棚だけに収まらずに床にまで置かれていた。内臓だけでなく腕や足までもが大小様々な瓶に詰められている。中には頭部がそのまま入っているものもあった。
彼女は、小さな卓上冷蔵庫にプリンをしまうと、鼻歌交じりで準備を始める。手袋やゴーグルにガラス瓶といった道具を一通り作業机に並べた。
そして、慣れた手つきで作業を終えた彼女は、趣味のホルマリンコレクションに新たな一瓶を加えた。
瓶の中には眼球が二つ入っている。
その瓶のラベルには『No.91 金田昇』と書いてあった。
ホルマリン漬けにされた眼球を眺めながら、彼女は冷蔵庫から取り出したプリンを口に運んで静かに微笑んだ。
「……金田君って、目、綺麗だね」




