餌はプリン
月明かりが少し霞む春の夜中。コンビニに止まっている黒い車が、店の明かりを受けて怪しげな雰囲気をまとっている。黒い車は他の車と比べてどこかよそよそしく、近寄りがたいたたずまいだ。
車の中では作業服を着た二人の男が思い思いに暇を潰していた。一人はスマートフォンのゲームに勤しみ、もう一人は革でできた大きめのカバンの中身の確認している。
その不審な黒い車の横で、夜の闇に溶け込みそうな黒いスーツの男は煙草を吹かしながら、コンビニの明かりに集まる虫を眺めている。光に集まってきたつがいらしき二匹の羽虫が、蛍光灯の周りを飛んでいたかと思うと、一匹が近づきすぎて蛍光灯の熱に焼かれて落ちた。残ったもう一匹も、同じように焼かれ、暗闇の地面へ吸い込まれていった……。
⊃・⊃・⊃
手を繋いでコンビニから出てきた若いカップルは、家に帰る途中の公園で学生服を着た白い少女を見かけた。ベンチに座っている少女は、街灯の明かりを真っ白な髪に浴びせて煌めかせている。
少女を無視して立ち去ろうとした男の手を女が引く。
「ちょっと、陽」
「なんだ、有希」
「あの白い子、さっきからずっとあそこにいるわ」
有希の視線の先には、頭を光らせた電灯たちが立ちすくむ夜の公園のベンチで何かを食べている一人の白い少女がいた。そんなことは陽もわかっていた。
「知ってるよ。どうせ家出少女かなんかだろ」
「だったら放っておけないわ」
「やめとけやめとけ。ああいうのに関わるとろくなことにならないぜ。俺のカンがそう告げている」
面倒臭そうな陽に荷物を押し付けて、有希は白い少女に近づいていく。
「ねえ、こんな夜遅くに何してるの?」
「……別に」
生クリームの乗ったプリンを食べている、どこかの学校の制服を着た白い少女の答えはそっけなかった。
制汗スプレーか何か使っているのか、白い少女からは不思議な臭いがする。だが、嫌な臭いではない。
「家はどこ?」
「……」
「名前は?」
「……リン」
リンと名乗った少女は、少しクセのある白い髪に黒い花を付けていて、赤いフレームのメガネを通した銀色の目で有希を見ている。 その銀色の瞳にはリンの感情は見いだせず、ただ有希自身の姿が映っている。
月明かりのような、真っ白で幻想的と言ってもいいリンの容姿から、有希は目が離せなかった。
「リンちゃんね。このあたりは最近誘拐事件が起きているらしいから危ないわよ。さっきもコンビニに変な車がいたし、早く家に帰ったほうがいいわ」
「……そう」
有希の話を聞いているのかいないのか、リンはひたすらプリンを食べ続けている。
そこへ、しびれを切らした陽が公園に入ってきた。
「いつまでやってんだ。もうほっといて早く帰ろうぜ。この前ので最後っつったろ。ビールがぬるくなっちまうよ」
「ちょっと待って、陽。――ねえ、リンちゃん、うちに来ない?」
「おいおい有希、冗談だろ?」
「陽もさっきコンビニで黒い変な車見たでしょ。こんな夜中に女の子一人なんて危険すぎるわ。ね、リンちゃんも公園で一夜を過ごすよりは屋根のある所がいいでしょ?」
何も答えずに最後のプリンを食べ終えたリンは、空き容器でいっぱいになっているコンビニ袋をゴミ箱に捨てて、通学カバンを背負って立ち去ろうとする。
有希は陽の持っているコンビニ袋からプリンを取り出す。
「リンちゃん、プリン好きなの? ちょうどここにも一個あるんだけど。食べたい?」
リンの足が止まった。なかなか現金な性格のようだ。
「うちに寄ってプリン食べていきなよ」
「そんなんで来るわけが……」
呆れる陽の予想に反して、リンは近づいてきた。
「……行く」
「よし、じゃあ行こうか。すぐそこだから」
プリン一個で簡単に釣れたリンを見て陽は呆れかえった。
「逆に心配になってくるな、こいつ。……まあ、いいか」
前を歩く有希の手を握っているリンが振り返る。眠たげな銀色の瞳は、陽の心の中まで見透かしているような気がした。
「……なんだよ」
しかしリンは答えずに前を向き、そのまま有希に手を引かれて歩いていく。
「……マジでなんなんだよ、ったく」




