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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第20話 とんっでもないことを言い出したじゅ?

 グラントを差別主義のクソ野郎に貶めていた原因が……自分。

 呆然と動きを止めたレインを慰めるように、班員たちはことさら明るい声を上げた。


「で、でも、さっきの班長の話を聞いて勇気づけられましたよ! 私、実はそういう良くない噂を聞いてもこの班に所属しようと思った経緯が、班長とよく似ていて……」


「あ。私もです。あと実は、悪い噂や危険性よりも、少しでも給料が上がることのほうが大事で」


 そして自分たちがこの班に所属しようと決めた経緯を話すことで、それとなくわずかに話題を別の方向へとずらし、レインの意識をそちらへと誘導する。


「わかる、お金必要よねえ。私は離婚。しかも借金を押し付けられたあげくに、元夫は行方不明っていうね」


「私もお金がいるんで覚悟決めました。貸与型魔導勉学金制度のご恩奉公で一度は教会の聖騎士団に入団したんですけど、所属先の聖職者様からえぐいイジメを受けて辞めざるを得なくて。しかも賞与された勉学金の倍の額を返さなきゃいけなくなって……!」


 親の介護費用のため、亡き両親が残した借金返済のため、雪害に遭った故郷の立て直しに少しでも協力したくて……。

 レインと同じように硬いパンを引き千切りながら遠い目をして語る彼女たちもまた、背負っているものが重かった。


 ここなら危険なぶん手当もつく。という切実な理由で、彼女たちはレインの班への異動を受け入れたようだ。

 ある意味暴露大会が開催され始めたなか、机を挟んでレインの正面に座った一人の新人兵士が意を決したように口を開いた。


「実は私は班長の戦いぶりを存じ上げませんでした。お金というより、脅威度の高い魔物との戦いを――もっと言えば、戦死を望んでここにきましたので」


(とんっでもないことを言い出したじゅ? 別次元で話が重いじゅ!)


 目を見開いて驚くレインと同様に、他の部下たちもパンを千切る手を止めた。


「私が死ねば……少なくとも、両親へ迷惑をかけることもありませんから」


 悲壮感に青ざめた顔でただ事ではないことを言い出したのは、クラーラ・マインズ。

 ほとんどが平民兵で構成されるレインの班ではめずらしく、貴族である。

 良質な魔導石が採れる領地を有する、マインズ伯爵家の令嬢だ。


「戦死を望むだなんて、穏やかではありませんね……」


(そんでもんのすごーい迷惑だじゅ。戦死なんてされたらもちろん私もへこむじゅ。でもなにより隊長が気に病むじゅ)


 グラントは自分への脅威もさることながら、それよりもそのせいで部下に被害がいかないように、寝る間も惜しんで上層部と交渉して隊の人数を増やした人だ。


(メンタル激落ちが目に見えるじゅ)


「理由を聞かせてください」


 どうでもいい理由ならブリザードで頭を冷やさせようと意気込んだレインへ、クラーラが薄桃色のまつ毛を伏せて理由を話し出した。


 マインズ伯爵家は数年前から魔導石の産出量を増やすべく、領地の山を調査していた。一年前に新たな鉱脈を発見し、いざ採掘となった段階で問題が発生したらしい。

 そしてその問題を解決するには、どうしても隣の領地を支配するアルダー子爵の力を借りなければならなかった。


「問題解決の交換条件に、アルダー子爵は私を花嫁として望みました」


 周りで話を聞いていた部下たちの反応はさまざまだ。

 年上の大半は眉をしかめ、レインやクラーラと同年代たちは自分に照らし合わせて考えた結果、うーん? と首を傾げている。無論のこと、良い感情を表した表情ではない。


「アルダー子爵っておいくつですか?」


 その中の一人が首をひねりつつ言った疑問へ、クラーラが「ハッ」と口を歪めて答えた。


「私より四十歳も年上です」


「あーそれはない」


「ないないない」


「せめて息子さん、お孫さんとかではなくですか?」


「アルダー子爵は未婚です」


 全員が黙り、そして全員が先ほどのクラーラと同じく唇を歪ませて「ハッ」と強く息を吐き出した。

 皆それぞれ事情を抱え、それに合った人生観を持つ者ばかりである。


「それはなんというか、最低ですねというか、最悪ですねというか……」


 レインが口ごもりつつ言うと、部下たちが気の毒そうにうなずく。


「愛はこれから育めばいいとか、歳の差なんて、というわけにいかないですよね」


「そうそう。問題解決の見返りに若い女を寄越せって言っている時点で、中身も腐れているわけで」


「マインズ様が悲観するのも納得です!」


「ああ、ぜひ私のことはクラーラとお呼びください」


 まつ毛と同じ薄桃色の髪を揺らし、ふふっと笑ってクラーラが目を細めた。

 手元には山盛りのパンくず。

 パンを引き千切る指先の所作が貴族らしくとても優雅である。


「ご両親はなんと?」


 スープから上る湯気越しにクラーラを見てレインが首を傾げると、彼女は金色の瞳を翳らせた。


「大切な娘を渡すものか、と」


 それなら守ってもらえるのでは……と少しだけ場が和らいだけれど、クラーラは首を横に振る。


「けれど私は、両親が新鉱山のために大金をかけたことを知っています……そして、父が新鉱山に力を入れるのは、枯渇の兆しがあったからだということも知っています。曾祖父の代から我が家を支えてくれた鉱山が、いつ涸れるか……十年後かもしれないし、明日かもしれない」


 クラーラの白い頬に落ちたまつ毛の影が震える。


「アルダー子爵は、私が四つか五つの頃から執拗に粘着してきた男です。今回の〝問題〟も、実は彼が仕組んだのではないかと家族は疑っています」


 新規鉱山の採掘許可を国から得て、坑道の掘削工事や選鉱場の建設工事、輸送路の確保などがあらかた終わった段階で、いきなり脅威度S級のジャイアントゴーレムが出現したのだという。


 ゴーレムは岩や石の多い場所の魔力溜まりで発生することが多い。

 それゆえ新鉱山に突然現れることもあるだろう。


 しかしマインズ伯爵は調査の段階でかなりの予算を割いて山に棲みついた魔物を討伐し、大金を積んで教会に依頼して魔力溜まりを祓ってもらった。

 教会も〝向こう五十年は魔力溜まりは発生しないだろう〟と太鼓判を押したという。


 その状態で、脅威度S級の魔物が自然発生する確率は限りなくゼロに近い。

 そしてゴーレムは、人工物や建築物に近い特性から、討伐した素材を組み立てて人工的に作り出すことができる稀な魔物だった。


「実際、五十年前くらいに戦術兵器として戦争で使用されたこともありましたよね。一応、制御もできていたとか」


「え、でもあれって自然発生したゴーレムに、従魔の魔道具を張り付けて操っていたんじゃなかった?」


「そっちのパターンもあったね。でもどっちにしろ、戦争に使われたゴーレムは従魔の魔道具で制御してたはず。だから脅威度S級とはいえ、ゴーレムだったら従魔の魔道具で比較的安全に……って、まさか」


 女性兵士たちの流れるような会話が、ぴたりと止まった。


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