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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第19話 会話が発生したじゅ!

 リーリアの突然の訪問から二ヶ月が経った頃、第四小隊は解体され、新たに高脅威度魔物専門討伐隊として編成された。


 グラントが実家のウェストコット迷宮伯家をはじめ、縁がある貴族家や第三旅団の各隊長たちに声をかけて、なんとか新部隊発足とともに人員の削減という処置は免れることとなった。

 旧第四小隊の面々はほとんどがそのまま新部隊へと残り、さらに他の隊から隊員を融通されることにもなった。他部隊の隊長たちは、明日は我が身と事態を重く見たようだ。


 この決定が下されるまでの間、今までよりもさらに仕事や外交で休みなく働き続けたグラントはやつれている。

 途中で何度か一緒に他部隊の隊長の元へ交渉に訪れた道中で、グラントは心の底から「休みが欲しい」と呟いていた。


 カーグラント侯爵が狙っていた〝グラント・ウェストコットの過労死〟が、期せずしてもう少しで達成されてしまうのでは……と不安になったほどだ。


 そんなグラントの奮闘の結果、なかなか班員が決まらなかったレインの班のメンバーもようやくそろった。


 集まったのはほとんどが平民出身の女性兵士ばかりだ。

 リーリアから男と勘違いされる見た目になったレインを囲んで昼休憩を取る様子は、さながらハーレムのようである。


「実は私たち、班員になるのを周囲から止められたんです」


 昼休憩恐怖症の発症を防ぐために勇気を出して部下たちに声をかけたレインに、班員たちは快く応じてくれた。

 そのことに痺れるような喜びを感じ、ほくほくとランチのハンバーグとともに嬉しさを噛みしめていたら、レインを囲んでランチをとっていた平民兵の一人が不安げに切り出した。


(か、会話! 会話が発生したじゅ!)


 会話にはリズムとテンポが重要であると、グラントを真似するようになってから痛感している。


 思えば故郷にいた時、王都にくる一年ほど前から、レインの会話の相手はほとんどダリオと彼の両親だけだった。

 あとは教会で行われる授業とその内容への質疑応答くらいだろうか。


 質問が無ければ会話も発生しない授業はともかく、レインを置いてけぼりにして進んでいく身内特有の会話には、レインがそこにいる意味もない。


 レインがいるのにレインがいなくても成立する会話をする親しい人たち。


 会話をただ聞くだけというのもそれはそれで楽しかったと思う。

 けれどレインが言った言葉に反応があって、こちらも相手の言葉に返して、それが続いていく。そういう一方的ではない会話も楽しいのだと知った。


 置いてけぼりにされる感覚がない会話には、さみしさも感じない。

 ただしそれを成立させるためには、なんといっても迅速で適切な返事が必要である。


「それは……」と口を開く前に、レインは大急ぎで口の中のミンチを飲み込んだ。


 熱を持った粗挽き肉が、妙な角度で喉の粘膜を削り取りながら食道へと落ちていった。痛い。


「高脅威度の魔物ばかりを相手する班だから、心配されるのは無理もありません」


「あ、いえ。周りも、私たちも、それはあんまり心配していないんです」


 サラダのレタスをフォークで刺しながら班員の一人がきっぱりと言うと、同じような声音と表情で班員たちが口々に同意する。


「そうです。なんといっても班長がいらっしゃるので」


「ですよねー。みんなそうですよね」


「まあハンター班長がいるなら大丈夫かなって」


「ど、どういうことです……?」


 班員たちからの謎の信頼に首を傾げると、彼女たちはきゃっきゃと笑いながら続けた。


「班長の戦いぶりを見たら、これは脅威度S級の魔物に挟み撃ちでもされない限り、怪我ひとつしないなって思いました」


「ブラッド・アリゲーターを一瞬で全滅させたというのも、誇張じゃないとわかりましたよ」


「敵発見、即凍結! 次! って感じですもんねえ」


「万が一班長がいない場合に備えて私たちも頑張らないと、とは思いましたけど……班長が現場にいないっていうのも想像できなくって」


「訓練はちゃんと頑張りますよ。でもそれを活かす私たちの出番あるかな? って」


「あー……えっと……」


 レインは曖昧に微笑んだ。

 

 グラント奮闘中の二ヶ月間、なかには彼に非協力的な者もいた。

 隊員を融通する代わりに、〝厄介な魔物の討伐の手伝い〟をグラントにさせようとした者もいたのだ。おそらく彼らの何人かはカーグラント侯爵派の人間だったのだろう。


 だがそれは、仕事に飢えたレインが全て買って出た。


 孤独感の発散とは別に、隊長がこんなに頑張ってるのに交換条件を出すってどういうことじゅ!? という憤りのまま、討伐現場で大暴れした覚えがある。


 彼女たちはレインのその戦いぶりを見て、この班に来ることを決意してくれたらしい。

 思い返してみれば、ここにいるのは確かにレインが手伝いで行った現場で見た顔ぶればかりである。


「私たちがこの班への異動を躊躇したのは、〝ウェストコット隊長は平民を馬車馬のように働かせる冷酷な男だ〟って聞いたからです」


「私もです。〝平民兵は差別や死を覚悟しろ〟って。まだ所属して少ししか経っていないのでよくわかりませんが、あの、これって本当ですか……?」


「まさか!」


(んなわけないじゅ! 隊長がそんな人なら、私はあんなに後ろめたい思いをして下水道に忍び込んでないじゅ! 誰がそんなこと言ったじゅ! いったい何が原因じゅ⁉)


 レインは憤慨しつつパンを手に取りながら、首を横に振った。


「むしろ隊長は平民にとても優しい方です」


 隊長がいなければ私は……と、レインは今日までの出来事を思い返してため息をつく。

 そして自身の過去――幼馴染であり婚約者でもあったダリオに裏切られ、家を追い出された混乱と絶望の最中に、グラントの親切によって救われたことを語る。


「誰がそんなひどい噂を流したのか。原因がわかったら凍らせなくては!」


 パンをむしりながらレインがそう決意すると、部下たちはうっすらとした笑顔で顔を見合わせた。


「あの、お言葉ですが……班長が他部隊の手伝いにいつもどんな時でも顔を出していたのが原因ではないかしら、と」


 呆然と彼女たちの顔を見返して、「原因は、私……?」と呟いたレインの言葉に、班員たちは深くうなずく。


 レインがふと皿を見下ろすと、スープに浸さないと硬くて食べられないことで有名な通称〝ショクドウスゴクカタイパン〟がパン粉のように山になっていた。


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