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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第18話 嫌だじゅ

 変だと思っていたのだ。


 警邏隊からの下水道やスライムについての報告書が、第四小隊室の片隅に、誰にも読まれず残っていたなんて。


 あの資料をグラントが確認していたら、新人たちだけで下水道へ行ったりしなかっただろう。

 少なくとも第四小隊からはリチャードをはじめベテランを幾人か連れていったはずだ。


 慎重なグラントが、あんなふうに脅威度設定のミスなどするはずがない。

 それを誘導した者がいたというなら納得できる。


 最悪の場合、カーグラント侯爵の目論見通りになっていただろう。


「ワニが根性なしのへなちょこだったから良かったものを……!」


 ぐっと拳を握ったレインへ、グラントが思わずといったふうに吹き出した。


「ブラッド・アリゲーターは脅威度A級の魔物だ。それをたいしたことがないと言えるのは君くらいのものだよ。だからきっと、侯爵も焦ったのだろう」


「焦った?」


「私に強い味方がいることと、そのおかげで簡単には私が潰れないことを知った。今回の再編で高脅威度の魔物を専門に討伐することになれば、君は常に前線に出続けることになるだろう。私と一緒に味方()も潰そうとしている」


 それは望むところだじゅ! と思わず言いそうになって、唇を噛む。

 噛みしめて真っ白になった唇の隙間から、けれど「無人島に左遷よりはぜんぜんマシじゅ……」とこぼれ出てしまって、より強く噛んで真っ赤な血が一筋流れた。


「旅団長やその他隊長格の意見を無視する形で案を通したということは、本気で私を殺そうとしているのかもな」


 レインは凍りついた。

 そして、嫌だじゅと、思った。


 レインは仕事が好きだ。

 人のざわめき声や、気配や、熱や、匂いや、動きが――生きている様子が、一人ではないという雰囲気が、職場にあるから好きなのだ。


 そしてレインが好きなその職場の雰囲気を作っているのはグラントなのだと、彼を観察して真似を始めてからよくわかった。


「私は、嫌じゅ……隊長がいない職場なんて絶対嫌だじゅ……!」


 そんなの、誰もいないなんにもない家にいるのと変わらないじゅ。

 死んでるみたいに静かなところにいるのと、変わらないじゅ!


「わ、私が、私が隊長を絶対死なせないじゅ! 脅威度AでもSSでも全部まとめて凍らせるじゅ! リーリア様だって、わ、私、隊長のためなら凍らせるじゅ!」


 ダリオにふられて捨てられて、どうしていいかわからなくて混乱して、居場所を失くして泣いていたレインを助けてくれたのはグラントだった。

 あきらかに働き過ぎで、訓練のし過ぎで、職場にいすぎるレインを、だけど事情を顧みてそっとそこにいさせてくれた。


 隊長がそうしてくれてなかったら、きっとレインは折れていた。


 悔しさに誰かを責めて、もしかしたらダリオの言っていた「王都生まれ王都育ちの洗練されたお嬢様」を探し出して、ダリオとともに凍らせてしまっていたかもしれない。

 もしくはなんにもできずにただ泣いて、自分を責めて、自分を凍らせてしまったかもしれなかった。


「私が隊長を守るじゅ!」


 身を乗り出してドンッとグラントの執務机を叩いてレインが言うと、グラントは衝撃で崩れ落ちそうになった書類を押さえながらまじまじとこちらを見つめてきた。


 翳っていた緑色の目に、チカチカと光が瞬き始める。

 露のついた若葉が朝日に当たって煌めくみたいで美しいと、レインは思った。


「私ももう一度実家からカーグラント侯爵家へ断りと、釘を刺してもらう。上にも掛け合って、せめて人員の確保はする。仕事のし過ぎで麻痺していたが、被害を被るのは部下だものな……」


 下水道の時だって、君が来なければ部隊は全滅していただろう。と、グラントは苦々しく続けた。


「個人的なことに巻き込んでしまってすまない」


「気にしないじゅ。私は仕事も隊長も大好きだじゅ! 隊長を守れて仕事もできて、そんなの私にとってはご褒美じゅ!」


 グラントがぶわっと顔を真っ赤にして視線を少しだけそらし、「ありがとう……」と呟いた。





 しばらくして、「ところで……」と、グラントが咳払いをしてから言った。


「〝無人島への左遷〟とは、どういうことだ?」


 もう少しすると昼休憩も終わるだろう。

 グラントの咳払いで空気が変わり、少しだけ落ち着いたレインは、執務室という公的な場所で途中からずっとだじゅ弁丸出しで話していたことに気がついた。


 こちらもコホンと咳払いしてから、レインはリーリアをエスコートしつつここに来るまでの会話をかいつまんでグラントへ話す。

 全てを聞き終わったグラントは、うなだれながらため息をついた。


「すまないが、リーリア嬢の前ではもうしばらく今のまま、正体がばれないように振る舞っていてくれ……」


 一気飲みした酒が思ったよりも度数が高くて、喉を真っ赤に焼いたような声だった。


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