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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第16話 話の通じないお嬢さんだじゅ……

 聞けばリーリアはアポイントメントを取っていなかった。

 それならもしかしたらグラントも昼休憩を取っていて不在かもしれないと思いつつ、彼の執務室の扉を叩く。


 ややあって、中から入室許可が返ってきた。

 この人いつ休んでるんだじゅ? と思いながら、レインは扉を開けてリーリアを室内へと促す。


「グラント様! リーリアが会いにきてさしあげてよ!」


 軍の詰所で聞くには華やかすぎる声に驚いたのか、グラントが執務机で書類を書くためにうつむいていた顔を勢いよく上げた。

 書類仕事に真剣だった顔が、リーリアを認めて一瞬だけ「は?」という、真冬の夜道に立つ全裸男を見たような表情をしたのを、レインは見逃さなかった。


 そしてレインを見て、「休憩はどうした」と呟いたのも、レインは聞き逃さなかった。

 その言葉はそっくりそのまま返したい。


「案内ご苦労だった。君は戻って昼休憩を取りなさい」


 グラントの言葉は、昼休憩を取らずに来客対応をした部下への配慮だった。

 しかし〝昼休憩〟は、レインを孤独に追いやる凶器である。


 今日の場合は特にそうだ。

 こんな中途半端な時間から休憩と言っても、小隊室には誰もいないだろう。

 食堂は満席で入れないだろうし、運よく席が空いていても結局一人で食事をとるはめになる。


 今までは、人の声が聞ければそれだけで孤独を慰められていた。

 だけど下水道のブラッド・アリゲーター討伐以来、多少人との触れ合いが増えたせいで、村でのことを思い出す機会が増えてしまった。

 村人たちから少し遠巻きにされていたことを。


 仲良したちがワイワイと楽しそうにしている中で一人ぼっちというのも、つらいものである。

 だからと言って外に食べに行っても結局ぼっちだ。


「いえ、密室で二人きりなど、あらぬ噂を立てられてはお二人の未来に傷がつきかねません。ご婚約はまだだとうかがいました」


 グラントの退室命令にもっともらしい言葉を言って、全力で抗う。

 なぜならレインには、この場にしがみつきたい理由が〝昼休憩恐怖症〟の他に、もうひとつあったからだ。


(今ここを離れたら、リーリア様に私がネズミだってバレるかもしれないじゅ! そしたら無人島じゅ!)


 梃子でも動かぬというレインの気持ちを察したのか、グラントがこめかみを揉みながら長いため息をついた。


「せっかくグラント様へ耳よりの情報を持ってきたのだから、わたくしも二人きりでお話をしたいですわ。けれど何ひとつ憂いなく、万人に祝福される結婚式を挙げたいとも思いますの」


 リーリアが真っ赤に艶めく唇を尖らせて言った。


「まああなたなら、わたくしの側に控えていてもよくってよ。視界に入っても不快にならない美しさですもの。それに、彼もグラント様の小隊の隊員なら、お父様が言っていた第四小隊の再編成のお話も無関係ではないのだし」


 その言葉に、グラントの空気が一変した。

 鋭い視線がリーリアに向けられる。


「それは評議会で提案されたという、〝討伐専門部隊〟の話ですか? まだ検討段階だったはずですが」


「ええ。正式発表はまだ先でしょうけれど、お父様が働きかけてくださったの。あなたの第四小隊を、高脅威度魔物専門討伐部隊として再編することが正式に決まったのですって!」


 リーリアは誇らしげに胸を張り、ハート形にカットされたルビーのネックレスを揺らして続けた。


「これでグラント様は、わたくしにふさわしい戦果を挙げやすくなったわ。二人を邪魔する壁はグラント様の頑張り次第ですぐにでも打ち壊されるでしょう。楽しみですわね!」


 彼女の話によれば、グラントを小隊長とする第四小隊は今まで通り南東方面第三旅団第二大隊第一中隊所属ではあるけれど、運用上は方面司令部直轄となるらしい。

 部隊の再編でグラントの下につけられる部下は少数精鋭の名のもとに今の半数となる予定で、新設予定だったレインを班長とした班が主戦力となる見込みだそうだ。


 王都から見て(・・・・・・)地方領軍の手に負えない化け物(派遣が妥当)だ、と考えられた場合に派遣される、いわば軍の便利屋にして助っ人。

 突然王都からきて手柄をかっさらっていく便利屋に良い印象を持たない者からの妨害も考えられるなか、少数で一番危険な場所に真っ先に飛び込んで、脅威度A級からSS級の魔物を討伐しなくてはならない。


 討伐できて当然。

 できなければ無能と誹られるか、最悪の場合は全滅だ。


 それを喜ばしいこととして手を合わせてうっとりと話すリーリアに、レインはぞっとした。


「お父様はね、グラント様の〝迷宮伯の三男〟という立場では、わたくしに釣り合わないと思っているの。個人的な武功がもっと必要だと考えているのよ。そうすれば、わたくしとの婚約に誰も文句を言えなくなるでしょう?」


 だからわざと隊の人数を絞り、危険な任務がグラントの元へ集まるようにしたのだと、リーリアは真っ赤な瞳を潤ませた。


「今まで通りグラント様の隊へ休みなく仕事を回すのでもよかったみたいだけれど、それではわたくしと結婚できるほど功績をあげるのに何年かかるか……。本当はわたくし、今すぐにでも結婚したいくらいですのよ」


 うっとりと語るリーリアへ、グラントが首を横に振ってきっぱりと言った。


「そもそも私も、ウェストコット迷宮伯家からも、カーグラント侯爵からの婚約の申し入れには正式にお断り申し上げているはずです」


 傍で聞いていて二人の関係をリーリアの語る通りなのだとうっかり信じそうになっていたレインは、リーリアの……というよりも、カーグラント侯爵家の一方的な言い分に思いきり引いた。


 あの穏やかな上官がとても迷惑そうだ。

 対してリーリアの態度は勢いが衰えない。


「もちろん、グラント様の想いはわかっていてよ。お父様は王国軍務評議会の評議員、わたくし自身も才色兼備にして温柔敦厚、完璧ですもの。引け目を感じていらっしゃるのでしょう? お父様もわたくしも、それを埋めてさしあげると言っているのよ?」


 ほほほほと真っ赤な唇をすぼめて笑い、リーリアは金の縦ロールを払って続けた。


「感謝して、頑張ってちょうだいませ?」


 高笑いをあげるリーリアをグラントは不気味な物を見るような目で見つめ、レインは(なんて思い込みの激しくて話の通じないお嬢さんだじゅ……)と絶句した。


 下水道で遭遇したはぐれスライムのほうが、まだ意思の疎通ができていた気がした。


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グラントが休めないのはそんな理由だったのか!? なんて迷惑な女!
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