↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
66/71

傭兵王

ヨルタン王バルルが、デモノ王から課された二千の監視兵を引き連れ、自軍の三千とともに不気味な出陣の準備を始めた、まさにその時のことだった。

静まり返ったデモノ王の部屋の扉を叩き、一人の大柄な男が不敵な笑みを浮かべて入ってきた。

デモノ王が高い報酬で雇い入れている精鋭傭兵団の首領であり、裏社会で自らを『傭兵王』と称して憚らない、戦いと金を愛する残忍な男だった。

数々の国同士の戦いでモーラで稼いでいるのだ。

ジュリアスの軍を見て、デルモラードに戦乱があるとやって来て直ぐにデモノに雇われたのだ。


「デモノ盟主。バルルの狸めが、いよいよ北部の五部族の内の仮面族どもと残りニつの部族の殲滅に向けて動き出しましたな」


傭兵王は楽しげに肩をすくめ、デモノ王の前に歩み寄った。


「どうです、俺たち傭兵団も『デモノ直属軍』として、あのバルルの軍勢に同行させてくれませんか? 北部の連中を根絶やしにすれのを俺たちも一枚噛ませてほしい、お宝の匂いもするじゃありませんか」


デモノ王は玉座から、その強欲な傭兵を見下ろして低く唸った。


「ならん。此度の北部鎮圧はバルルに任せてある。そちたちを動かす必要はないわ」


「おいおい、邪険にしないでくださいよ」


傭兵王はニヤニヤと下品な笑みを浮かべ、机の上の地図を指で叩いた。


 「金が欲しいんですよ、俺たちはね。あの北部の連中が住む山には、希少な『カーラ石』がたっぷりと眠っている。あの鉱山を分捕れば、莫大な富になる。違うかい?」


パーラ石。かつて十五歳のワシを救ってくれた仮面族が、デモン国と取引して大儲けしていたあの輝く鉱石だ。

デモノ王は手元にある銀色の秘薬の小瓶をそっと衣服の奥へ仕舞いながら、深く思考を巡らせた。

仮面族は強い。何より、あの夜にワシの黒目を見て、この五十年の不老の力をくれた恩人でもある。できることなら、あの強大な力を持つ一族を皆殺しにするのではなく、生かして捕らえ、ワシの忠実な軍勢(道具)として味方に引き入れたい。

 

「……分かった」


デモノ王は濁った瞳を光らせ、傭兵王を鋭く睨みつけた。


「そちたちの同行を許す。だが、一つだけ絶対に守らねばならぬ約束がある。あの『仮面族』だけは、絶対に殺してはならん。傷を負わせても構わぬが、決して命を奪うな。奴らの村を包囲して追い込み、完全に退路を断って『降伏』させるのだ。……フン、残りのニつの部族に関しては、そちたちの好きに蹂躙するがいい」


「仮面族は殺さずに、村へ追い込んで降伏させる、か」


傭兵王は一瞬だけ意外そうに眉を上げたが、すぐに面白そうに口元を歪めた。


「分かりましたよ、盟主様。契約は厳守だ。バルル殿にも、俺からそう上手く伝えておきましょう」


傭兵王は恭しく一礼すると、用は済んだとばかりに軽い足取りで部屋を退室していった。

だが――重厚な扉が閉まり、デモノ王の視線が完全に届かなくなった廊下に出た瞬間。

自称『傭兵王』の顔から、従順な笑みが嘘のように消え失せ、冷酷な獣そのものの悪辣な笑みが浮かび上がった。

傭兵王は、懐にある自分の愛刀の柄を小刻みに叩きながら、小声で不敵に呟いた。

「心配しなくても、デモノ様の言う通りにしてやるさ。……まあ、俺たちが仮面族の化け物どもと、正面から『まとも』に戦うつもりが無ければの話だがな。まともにはな……クハハ!」


傭兵王の頭には、正面からぶつかれば手痛い損害を被る仮面族を、何らかの卑劣な罠や薬物、あるいはバルルと結託した裏の策略によって、最も残酷な方法でハメ殺そうという、どす黒い算段が渦巻いていた。

デモノ王の歪んだ恩義、バルルの狡猾さ、そして傭兵王の邪悪な打算、北部同盟の歪な『五千と傭兵団』の軍勢が、仮面族の待つ北部の地へ向けて、最悪の進軍を開始しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。