魔族の真実と、ラトラスの戦況報告
「では陛下御二方の議論は長引きそうですので、我々だけで先に話を詰めましょう」
ラトラスは足元で相変わらず精神波でギャーギャーと騒ぎ続けている指導者と護衛を完全に無視して、キィールたちへと向き直り、一気に声を鋭くした。
「先ほど、我が5部族のうち、私たち以外の4部族は普通の人間だと申し上げました。……実は今、その4部族のうちの『2つの部族』が、北部同盟に脅迫され、北部同盟へと無理やり引き入れられているのです」
「なんだと……!?」
カイル王が身を乗り出し、キィールもまた漆黒の瞳を険しく細めた。
「彼らは本来、我々の居住区の近くで静かに暮らす平和な民でした。しかし、北部同盟は彼らの弱みに付け込み、凄惨な脅しをかけて人質を取り、イオン帝国の手下同然として北部同盟の軍勢に組み込んでしまった。実質、モーゼスが企む『他国を滅ぼし、民を奴隷にする』という狂気の計画の片棒を、無理やり担がされている状態なのです。残る2つの人間の部族は、今も必死に抵抗し、我が部族の庇護下で耐え忍んでいますが……限界は近いでしょう」
ラトラスの悲痛な言葉に、会議室の空気が再び張り詰める。
その時、ラトラスは自身の顔を覆う冷徹な仮面にそっと手を触れ、静かに、だが誇り高く言葉を続けた。
「陛下、そして皆様。話を進める前に、もう一つ、どうしても知って置いて欲しいことがあります。我々は世間から『魔族』などと呼ばれ、恐れられています。ですが、それは人間たちがこちらの都合も知らず、勝手にそう呼んで蔑んでいるだけに過ぎません」
キィールたちは息を呑み、ラトラスの仮面を見つめた。
「この『仮面』にしてもそうです。私たちがこうして異形を模した面を被っているのは、ただ残酷な世界から身を護り、正体を隠して生き延びるため。――我が部族の本当の名は、魔族でも仮面族でもありません。私たちは、『アスト族』と申します」
「アスト族……」
キィールはその真の名を、大切なものを刻み込むように口の中でそっと呟いた。人間が勝手に作り上げた「魔族」という虚飾の皮を剥ぎ、一人の対等な同盟相手として、本当の名前を明かしてくれたラトラスの誠実に、キィールの胸が熱くなる。
「分かった、ラトラス……これより魔族などとは呼ばずアスト族と呼ぼう」
皇帝イオン17世は力強く顔を上げ、ラトラスに微笑んだ。
続けて
「脅されて戦わされているだけの民なら、なおさら死なせるわけにはいかない。北部同盟の鼻を明かし、あなた方アスト族が普通に人間と対等に暮らせる世にしよう」
背後では相変わらず、フェルとリーベがしょうもない低次元な喧嘩を続けているが、円卓を囲む人間とアスト族の間には、これ以上ないほど熱く固い、本当の共闘の炎が燃え上がっていた――。




