族長会議
白磁の巨岩で囲まれたヴァイス族の広場。頭の後ろが大きな盾の形になった強靭な恐竜たちが地鳴りのような足音を響かせるなか、館の最奥にある円卓の間にて、五大部族のすべての族長と戦闘大将たちが一堂に会していた。
上質な白の獣皮を纏ったヴァイス族の老族長が、円卓の上に広げられたデルモラード地方の広域地図を指先で叩き、厳かに声を響かせる。
「皆、よく聞いてくれ。……ついに、我々がこの過酷な、呪われた地デルモラードから去る時が来たのかも知れん」
老族長のそのあまりにも重大な一言に、円卓を囲む部族の長たちの間に、一瞬にして冷たい緊張が走った。
すると、その沈黙を破るように、野生の生き物との共生を尊ぶハンタ族の族長が、不満げに肩をすくめて口を開いた。
「……去る、だと? 私はこの地がそんなに悪くないと思っているがな。底無しの沼地も、化け物どもの大群も、我らの牙と恐竜の力があれば十分に生き抜いていける。今更、他国の連中と混ざり合って新しい国など創る必要がどこにある」
「――悪くない、だと!?」
次の瞬間、ヴァイス族の老族長の凄まじい怒声が、白磁の壁を震わせた。老族長は激しい怒りに顔を真っ赤に染め上げ、円卓を激しく叩きつけて立ち上がった。
「悪く無いだと!? お前は現実を見て物を言っているのか! このデルモラード奥地では、生まれてきた子供たちの大半が、五歳になるまでに半分は死んでいくのだぞ! 我々のように生き残る術を磨き上げた、慣れた部族民でさえ、五十の齢を迎える前に病や過酷な環境で死に絶えてしまう! この命をすり潰すような不条理な地が、悪くないだと!?」
老族長の緑の目が、怒りと悲痛な涙に激しく濡れていた。
「ワシは自分のために言っているんじゃない! 我らに続く、これからの未来を生きる子供たちのために言っているのだ! これ以上、あのような無垢な命が冷たい土に還る姿を、見過ごして良いはずがないだろう!」
静まり返る円卓の間。戦闘大将ソルジャをはじめ、ガイル、バラン、フェン、ザルクといった錚々たる猛将たちも、老族長の命がけの叫びに圧倒され、拳を強く握りしめて静まり返っていた。
老族長は、傍らに凛として立つ、白い髪と白い肌を持つ聖女サーシャを愛おしそうに見つめ、最後に決定的な大義を突きつけた。
「今、我らは神の奇跡に導かれサーシャがイオン陛下の婚約者となり、まだ自らの直属の軍を持たぬ若きイオン陛下の、最初の直属の軍、そして民として仕える機会を授かったのだ! 陛下は、誰もが飢えずに暮らせる平和な世界を創ると本気で誓っておられる。この呪われた運命をひっくり返す絶好の好機に、一体何を迷うことがあるというのだ!」
老族長の魂の激昂を聞いた部族の長たちは、もはや一言の反論も返せなかった。
彼らの胸の奥にある「子供たちの未来を守りたい」という親としての欲と、シリウスの女神への深い信仰が完璧に一つに重なり合い、五大部族の心は、若き皇帝キィールを奉じて建国へ突き進むという強固な決意へと、完全に一つに束ねられたのだった。




