ミシアへの相談
3人は、翌日メシアの屋敷に出向いた。
メシアは、驚いたが笑みで迎えてくれて、今までの経緯を聞いてから
「……姫様方、少し話しても良いでしょうか?」
ミシアの部屋の空気は、彼女の放った一言で一気に張り詰めた。
3人は頷いた。
先ほどまでお茶を差し出してくれていた優しい先輩の瞳には、世界のどん底を見てきた者だけが持つ、冷徹で、しかし深い光が宿っていた。
ミシアは静かに、自らの過去を語り始めた。長々と、そして淡々と。
「私は元貴族とはいえ、家族のために店へ売られてきた身ではし。やってくるのは、欲に塗れた変な男ばかりで理不尽なこと、汚いこと……死のうと思っても家族のために、それも出来ない。どんなことでも我慢しようと心に決めてすごしてました。……いま、奇跡的にゾイル様と出会えて私は本当に幸せです。でも姫様方は私とは全く立場が違うと思うのです」
ミシアは、サーシャ、エレナ、リンの三人を、射抜くような目で見つめた。
「姫様方は国を背負う妃候補。それなのに、他国から魅力的な側室が来たらどうしよう、男の人の色香に負けたらどうしようと、そんな次元で愛だの恋だのと言っていて良いと思ってらっしゃるのでしょうか?」
三人は言葉を失い、息を呑んだ。
「キィール様は、これから国を建国し、導いていく御方です。
特定の誰か一人だけを贔屓して愛するわけにはいかないお立場だと思います。もしもキィール様が一人の女に溺れ、うつつを抜かすようなことがあれば、その瞬間に国は内側から傾き、滅びへと向かうかも知れません。……貴女方がすべきことは、男のあしらい方を覚えて寵愛を競うことではないではないでしようか?」
ミシアの言葉が、少女たちの胸に容赦なく突き刺さる。
「姫様方の本当の役目は、キィール様が女の色香に迷わされないよう、そして、貴女方自身にも溺れることがないよう、冷徹に彼を律し、守る盾になることではないでしょうか。だから、男をたぶらかすような変な知識なんて今の貴女方には一切必要あないと思います。……三人とも、国の為に、未来の為に。『誰よりも自分を愛してほしい』という幼い気持ちを、今すぐここに捨てなければならないと思うのです。」
その言葉は、ソフィアから受けたどの妃教育よりも重く、三人の心を震わせた。
ただキィールに愛されたい、他の女に渡したくないと焦っていた自分たちの小ささ。
周囲から「妃」と呼ばれるプレッシャーに怯えていたけれど、自分たちは「一国の王を支える」という本当の責任の重さを、何一つ分かっていなかったのだと突きつけられた。
そして続けてメシアは言う。
「――けれどね、勘違いしないでください」
部屋を出ようとした三人の背中に、ミシアのさらに重く、切実な声が突き刺さった。三人が振り返ると、ミシアは祈るように胸の前で手を組んでいた。
「『愛されたい気持ちを捨てろ』とは言ったけれど、キィール様を愛さなくていいという意味ではないのです。姫様たちは、キィール様を心から、本当に愛さねばなりません。……けれど、その愛に溺れて我欲に走っては絶対にいけないのです」
ミシアの瞳に、歴史の闇を見据えるような深い哀しみが宿る。
「なぜなら……貴女方がこれから進む道は、歴史上類を見ない茨の道だからです。本来なら国の正妃はただ一人。だからこそ、後継者となる子供たちの争いは最小限に抑えられのです。……けれど、この国の建国において、行く行くは『正妃が四人』になります。そうじゃないですか?」
サウザー国のエレナ、部族のサーシャ、予言者のリン、そしてもう一人。四人の正妃が並び立つという未来の歪さに、三人はハッと息を呑んだ。
「歴史を紐解けば、最初はどれほど仲が良く、お互いを思い合っていた女同士でも、自らの子供が生まれ、跡目争いが絡めば、あっさりと血で血を洗う敵同士へと変貌してしまいます。女同士の、そして子供同士の争いほど、国を根底から滅ぼす恐ろしい呪いはないと思います。……姫様たちは、自分たちの産む子供たちが将来、殺し合う未来を望みますか?」
「そんなこと……絶対に嫌です……っ!」
エレナが青ざめた顔で激しく首を振った。
「だったら、今から覚悟を決めなければなりません」
ミシアは三人の目を真っ直ぐに見つめ、一文字ずつ噛み締めるように告げた。
「誰よりも愛されたいという私欲を捨て、お互いを憎み合うことなく、四人で一つの国と一人の男を支える盾になると言うことを……そのためには、ただ恥ずかしがって避けるのではなく、キィール様と、そして貴女たち四人で、これからの未来について、それこそ血を吐くような本音の話し合いをこれからずっと、生涯をかけて続けていかなければならないと思います。逃げることは、国を滅ぼすかも知れません」
ミシアの、命を削るような最後の教えが、三人の少女の胸に深く、深く刻み込まれた。
ただの「男女の真実」への羞恥心や、側室候補への嫉妬など、本当に些細な子供の火遊びに過ぎなかったのだ。
自分たちが背負うべきは、数十年後の未来まで続く「子供たちの平和」であり、「新しい国の形」そのもの。
「……はい。ミシア様、すべてを賭けて、話し合ってまいります。




