3人の話し合い
夜が完全に更け、カイル王たちとの長い長い話し合いがようやく終わりを迎えた。
極度の緊張から解放されたリンが、くたくたになって自身の部屋へと戻り、扉を開けた――その瞬間、室内の先客を見てパチパチと瞬きをした。
「……二人とも、どうしたのですか?」
そこには、昼間の衝撃から未だに魂が抜けきっていない顔をした、サーシャとエレナの姿があった。
三人は誰からともなくベッドの上に身を寄せ合い、まるで世界で一番の秘密を共有するかのように、顔を寄せ合って小声で話し始める。
「リン……そっちの話し合い、やっと終わったのね。……ねえ、キィールの顔、まともに見られた……?」
エレナが枕をぎゅっと抱きしめながら、消え入りそうな声で尋ねた。
「う、うぅ……目を合わせるだけで、ソフィア様のお話が頭をよぎってしまって……生きた心地がしませんでしたわ……」
リンが両手で顔を覆うと、サーシャもまた、普段の毅然とした態度をどこへやら、膝を抱えて小さくため息をついた。
「これから、私たちはどうすればいいのかしら。……あの『真実』を、いつかキィールと話さなければいけない時が来るの?」
「無理よ、そんなの絶対に無理……っ!」
エレナが激しく首を振る。
彼女たちは、そもそもまともな恋愛経験すら一度もない。それなのに、いきなり男女の間に流れる秘められた情愛の仕組みを突きつけられたのだ。キャパシティを遥かに超えて混乱するのも無理はなかった。
「……そもそも、私たちはキィールのことを、どれくらい好きなのかしらね」
サーシャのぽつりとした呟きに、部屋が静まり返る。
確かに、キィールの「見かけによらず圧倒的に強い姿」には、三人とも確かな好意と憧れを抱いていた。
だが、その気持ちが本当に『男女の恋愛』なのかと問われると、誰も自信を持って頷けなかった。
「
彼が『イオン十七世』だから。周りの大人たちが『貴女たちが妃になるのだ』と当然のように言うから。……だから私たちは、彼をそういう目で見ていたのかしら」
エレナが困惑を露わにする。
彼への好意が、周囲からの期待や彼の持つ義務に引っ張られたものなのか、自分自身の純粋な恋心なのか、今の彼女たちには区別がつかない。ライバルがいるわけではないのに、自分たちの心が追いつかないこと自体が、何よりも三人を焦らせていた。
「……分からないことだらけね」
サーシャが自嘲気味に微笑み、ふかふかのベッドへ仰向けにバタリと倒れ込んだ。
「でも、サウザー国や私たちの部族を守るためにも、いつまでも逃げてばかりはいられないわ。……今はまだ、顔を見ると真っ赤になっちゃうけれど……」
エレナもサーシャの隣にゴロンと横たわる。
「ええ……少しずつ、自分の心と向き合っていきましょう」
リンも二人の間に滑り込み、三人の少女は天井を見つめながら、未だに少し熱い頬を冷ますように、夜の静寂の中で小さく寄り添い合うのだった。
その時エレナ一言は、ただでさえ混乱していた三人の間に、さらなる激震を走らせました。
「もし、他の諸侯や部族の代表から、『側室で構わないから、自分たちの姫をキィール様に嫁がせたい』って話が持ち上がったら、どうする……?」
静まり返った夜の部屋に、エレナの不安げな声が響きます。
一夫多妻が当然とされるこの世界。建国を前にして、他国や部族がキィール(イオン十七世)との繋がりを求め、「側室」という形で自分たちの姫をグイグイと押し込んでくる可能性は非常に高いのです。
「なっ……!?」
最初に息を呑んだのはサーシャでした。
まだ自分たちが「男女の真実」に大パニックを起こしている間に、大人の政治的な思惑で、見知らぬ他の姫たちがキィールの周りを固めてしまうかもしれない。そのリアルな光景が頭をよぎり、膝を抱える手に思わず力が入ります。
「それ……絶対にないとは言えないわね」
リンもまた、真剣な表情で地図を見つめ直しました。
「今はサウザー国と五部族の結束を固めるのが先決ですけれど、敵であるデモノの国に脅かされている他の諸侯たちが、生き残るためにキィール様との婚姻を求めて縋りついてくることは大いに考えられますわ」
恋愛経験がないからこそ、キィールの顔を見るだけで赤面してしまう三人。
けれど、他の諸侯が送り込んでくるかもしれない
「大人の女性としての覚悟を決めた姫たち」がライバルとして現れたら、自分たちは一体どうなってしまうのか。
「……そんなの、絶対に嫌だわ」
サーシャがポツリと、しかし強い拒絶を口にしました。キィールへの気持ちが「恋」なのかはまだ分からない。けれど、彼が他の誰かのものになること、そして自分たちの知らないところで側室の枠が埋まっていくことへの、焦りと独占欲がはっきりと芽生え始めた瞬間でした。
「そうよね……。だからこそ、私たちがいつまでも恥ずかしがってばかりじゃいられないのよね」
エレナは枕をぎゅっと抱きしめ直しながら、少しだけ決意を秘めた目で二人を見つめます。
男女の真実への羞恥心、キィールへの未だ見ぬ恋心、そして「側室」という政治の波。
三人の少女たちは、夜の静寂の中で、否応なしに「大人への階段」を一段、強く踏み出さなければならなくなると言うことを認識するのであった。




