極秘の話し合い
――その頃、城の別室では。
重々しい空気の中、今後の建国する為の「極秘の話し合い」が行われていた。
集まっているのは、カイル王、ゾイル、キィール、そしてサジィールの四人。
その時
「……皆様、お話し中、失礼いたします……」
ギィ、と静かに扉が開いて入ってきたリンの姿を見て、カイル王、ゾイル、キィール、サジィールの四人は一瞬、毒気を抜かれたように目を丸くした。
リンの耳の裏まで真っ赤に染まった顔は、先ほどソフィアから受けた「妃教育」の凄まじい衝撃を未だに引きずっていることが一目で分かったからだ。
俯き加減で指先をモジモジと動かす姿は、いかにも年頃の初々しい少女そのものだった。
「リン……? どうしたんだ、そんなに顔を真っ赤にして」
キィールが純粋に心配そうな声をかける。
「い、いえ! なんでもありません、すこし部屋の熱気が……っ」
リンは慌てて両手で頬を押さえ、ぶんぶんと首を振った。男たちの真剣な視線が集まるだけで、教わったばかりの「大人の知識」が頭をよぎってしまい、余計に顔が熱くなってしまう。
「ふむ。まあ、座りなさい、リン。ちょうどお前の知恵も借りたいと思っていたところだ」
カイル王に促され、リンは未だに湯気が出そうな顔をパタパタと手であおぎながら、男たちの話し合いの輪へと加わった。席に着くと、机の上に広げられた資料が放つ重苦しい空気が、彼女の照れを強制的に引き締めた。
サジィールが厳しい表情のまま、これまでの点と線を繋ぎ合わせるように口を開いた。
「……今回のリノの一件、やはり偶然ではない。あの『謎の豪商』のこれまでの動きを振り返れば、すべてが繋がる」
サジィールは冷徹な目で机の上の地図を指差した。
「奴は先の闘神戦で私を無き者にしようとし、さらにはサーシャ殿のオークションにまで裏で介入していた。そして今回、前回の失敗と己の正体が暴かれるのを恐れた奴は、口封じのためにリノの心を呪縛し、スパルタカス殿の暗殺へと動いたんだ」
「それだけではない」
ゾイルが腕を組み、苦々しい声を漏らす。
「あの男はかつて、私にまで破格の金を提示し、協力を依頼してきた。当時はただの欲深い金持ちの囲い込みかと思っていたが……今思えば、奴の狙いはもっと根深いところにある」
キィールが鋭い視線を全員に向け、核心を突いた。
「ここまで我々の要人をピンポイントに狙い、ゾイルにまで手を回していたとなれば……あの豪商は、俺やサジィールの『本当の正体』を最初から知っていたとしか思えない。そして、そんな芸当ができる黒幕など、一人しかいない」
「――モーゼス、だな」
カイル王の重々しい一言に、室内の空気が氷結した。
「……となれば、事態は我々の足元だけで収まらないぞ」
ゾイルの指摘に、全員の顔がさらに険しくなった。あの豪商を通じてモーゼスが他国の諸侯たちにも同じように触手を伸ばし、裏から抱き込んでいる可能性は極めて高かったからだ。
カイル王は深く息を吐き、静かに地図を見つめた。
「いま確実に信頼できると断言できるのは、エレナのサウザー国と、サーシャの部族関係に連なる五部族だけだ。……ヨルタン、サンタス、デモン、ディラーの諸侯の多くが、すでにモーゼスの闇に汚染されているとすれば、我々が目指す『平和的な建国』は、もはや不可能かもしれん」
血の雨が降る戦いを覚悟せねばならん、というカイル王の言葉に、室内の空気は完全に凍りついた。
男たちの張り詰めた軍議は、かつてない最悪のシナリオへと到達しつつあった。
しかし、彼らはまだ気づいていない。
自分たちが「モーゼスの手先」だと確信しているあの謎の豪商の正体こそが、他でもないモーゼスと手を組むが恐れていない、デモノその人であるということに――。
リンはまだ頬を赤く火照らせたままであったが、サウザー国と五部族を遺して世界が闇に包まれようとしているその壮大な陰謀と、男たちの悲壮な決意を肌で感じ、そそくさと胸の前で手を握り締めるのだった。




