ソフィアの想い2
「スパルタカス様……っ!!」
リノが眠りにつき、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ瞬間、我に返ったソフィアは弾かれたようにスパルタカスへと駆け寄った。
彼の肩は深く貫かれ、痛々しい状態のままだ。
「早く、どなたか医官を! 手当てを急がなければ……っ!」
ソフィアが悲痛な声を上げ、周囲のサジィールやカイル王たちも動き出そうとした、まさにその時だっ
た。
「――え?」
ソフィアの目が驚愕に見開かれた。
スパルタカスの肩の傷口が、淡い光を帯びたかと思った瞬間、まるで時間を巻き戻すかのように、みるみるうちに塞がっていったのだ。
出血はピタリと止まり、抉れていたはずの肉が綺麗に再生していく。信じられない光景を前に、カイル王やゾイル、エレナたちも言葉を失って凝視している。
わけが分からず、ソフィアは縋るような思いで、隣に立つ予言者・リンへと視線を向けた。
リンはそんなソフィアの動揺を優しく包み込むように、ニコッと聖母のような微笑みを浮かべた。
「神の奇跡ですよ、ソフィア様」
実はリンも薬の効きの凄さにびっくりしてたのだが…それを全く当たり前の様に言った。
「き、奇跡……っ」
ソフィアは完全に絶句した。
脳裏をよぎったのは、瀕死だったスパルタカスに自分が飲ませた、あのリンからの『秘薬』。
(あの薬は、ただの気休めの特効薬などではなかった……! 人の命を繋ぎ止め、傷をたちまち癒やす、本物の神の秘薬だったのだわ
リンは驚く一同をよそに、手際よくその秘薬をもう一包取り出すと、キィールの腕の中で眠る少女の唇へとそっと流し込んだ。
少女の荒かった呼吸が、さらに深く、穏やかなものへと変わっていく。
一同は、この少女がスパルタカスの愛娘であることには気づいていた。
だが、彼女が何という名前なのか、そしてなぜこれほどの凶行に及んだのか、その詳細はまだ誰も知らないままであった。
「……ひとまずは、安心ですね」
リンは静かに立ち上がると、カイル王やサジィールたちを見回した。
「お二人とも、命に別状はありません。今は深い眠りの中にいます。……さあ、私たちは一度部屋を出て、お二人を静かに休ませてあげましょう」
リンの言葉には、誰もが従わざるを得ない不思議な説得力があった。
「後はよろしくお願いいたしますね、ソフィア様」
そう言い残し、リンを先頭に、カイル王やキィール、エレナたち一同は静かに部屋を退出していった。
パタン、と扉が閉まり、室内には再び静寂が戻る。
残されたのは、ベッドに横たわるスパルタカスと少女。そして、呆然と立ち尽くすソフィアだけだった。
ソフィアは、すっかり元通りになったスパルタカスの肩と、その愛らしい娘の寝顔を交互に見つめながら、未だにバクバクと激しく打つ胸をそっと手で押さえるのだった。
その事を思い出して、廊下を歩いて今日もソフィアはスパルタカスの部屋に向かった。




