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ソフィアの頭痛

祭りの喧騒が去り、静けさを取り戻しつつある城下町を、エレナはのんびりと歩いていた。

だが、路地裏から聞こえてきた町娘たちの「お喋り」を偶然耳にした瞬間、彼女の足は完全に凍りついた。

――子供がどうやって生まれてくるのか。その、あまりにも衝撃的な真実を。


「え……!? だって、お父さまとお母さまが神様に熱心にお祈りしたら……っ!?」


エレナの頭の中は大パニックに陥った。

町娘たちが小声で話していた内容は、今まで信じていた絵本の世界を粉々に打ち砕くものだった。

子供を授かるためには、男と女が裸する儀式を伴うこと。

おまけに、出産の際には言葉を失うほどの苦痛を伴い、最悪の場合は命を落とす危険すらあるというのだ。


「そんなっ!?」


顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め、呼吸を荒くしたエレナは、弾かれたように城へと走り出した。

この衝撃を、自分一人では抱えきれなかった。

その頃、城内の一室では、サーシャとリンが筆頭女官のソフィアから、城内の決まり事や今後の作法についての説明を受けていた。

そこへ、バンッ! と勢いよく扉が開く。


「二人とも、大変なの……っ!!」


湯気が出そうなほど顔を真っ赤にし、息を切らせて駆け込んできたエレナに、二人は目を丸くした。


「あら、どうしたの? 泥棒にでも追われたような顔をして」


「エレナちゃん、一度落ち着いて、深呼吸して……?」


サーシャの冷静な声とリンの気遣いに、エレナは胸の動悸を抑えながら、核心の質問を投げかけた。


「ね、ねえ、二人とも……『子供って、どうして生まれるのか』知ってる……?」


突飛な質問に、サーシャはふんと胸を張って、少し威張った口調で答えた。


「何を言い出すかと思えば。そんなの決まっているでしょう。お父さまとお母さまが、神様にひざまずいて熱心にお願いするからよ」


リンも、頭の片隅で

(私は違うけど…)

と首を傾げつつも、目の前の二人の手前、話を合わせるように頷いた。


「え、ええ……普通は、そうですよね? 聖なる光が授けられるとか……」


二人の答えを聞いて、エレナは目に見えてホッと胸をなでおろした。


「そ、そうよね……!? よかった、やっぱり街の人の話しは嘘よね……!」


――だが、少女たちのそんな無垢な会話をすぐ隣で聞いていた人物がいた。

筆頭女官のソフィアである。 

ソフィアは、別に経験は無いのだが、女官教育で詳しく教えられている。

ソフィアはそっと額に手を当て、深い、本当に深い溜息をついた。その顔は「頭痛が痛い」と言わんばかりに歪んでいる。

この世界において、貴族の女性の貞操は何よりも重んじられていた。

ゆえに、正式に婚約するまでは、子供に本当の「大人の事情」を教えることは絶対にない。

必ず婚約期間が設けられ、その間に施される『花嫁教育』の中で、初めて世界の真実が明かされるのが鉄則だった。

だが、エレナがどこかで中途半端に真実を拾ってきてしまった以上、もう誤魔化しは効かない。

ソフィアは額から手を下ろし、眉間に深いしわを刻みながら、静かに、しかし威圧感のある笑みを浮かべた。

ソフィアは額から手を下ろし、眉間に深いしわを刻みながら、静かに、しかし威圧感のある笑みを浮かべた。


「……ちょうど良い機会ですわ、皆様」


「「「ひゃいっ!?」」」


冷徹な声に、三人の背筋が同時に伸びる。


「皆様もいずれイオン様の妻となる身。どうやら、少し予定を早めなければならないようです。……こちらへいらっしゃいませ。今から私が、『色々』とお教えいたします」


有無を言わせぬ調子で、ソフィアは怯える三人を発展途中の別室へと連行していった。

――それから、きっかり二時間後。

ギィ……と重々しい音を立てて、別室の扉が開いた。

そこから這い出てきたのは、耳の裏まで真っ赤に染め上げ、完全に魂が抜けかけた三人の少女たちだった。


「嘘よ……あんなの、破廉恥(はれんち)の極みだわ……」


「神様のお祈りとか、アトン様は言われたのに……」


「お母さま、凄すぎますぅ……私には無理ですぅ……」


何やらブツブツと、この世の終わりかのようなうわ言を呟きながら、機能停止した三人は千鳥足で廊下へと消えていくのだった。

その姿を見ているソフィアはふと声が漏れた


「皆様は、私より良いですよ。

 私何か…」


そう、ソフィアも彼女達と同じだった。

女官教育で、何と娼館のベットの真横の鏡が透けて見える(マジックミラーみたいな物)、場所に連れて行かれて、現場を見せられてたのだ。

娼館の女は、話しを聞いていたから、わざと良く見せるし、色々な体位をするしで…最初の時は気絶してしまってたのだ。

ソフィアは、静まり返った部屋で、再びそっと額に手を当てた。


「……ふぅ。私の時よりは、かなりオブラートに包んでお教えしたつもりですけれど……やはり刺激が強すぎましたかしらね」


建国前の張り詰めた静寂を、一瞬だけ賑やかに、そして愛らしく彩った、秘密の大騒動であった。


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